国債暴落のシナリオ検証(3)国債調整の3つのシナリオ

さて、歴史や環境要因の分析を終えて、具体的なシナリオを検証しよう。
経済には実に複雑な可能性があるが、ここでは3つのシナリオを検討する。

3つのシナリオ
 (A) 政府が歳入・歳出改革に目途をつける
 (B) 金融市場を正常な領域に維持できず国債が暴落する
 (C) 金融市場が正常な領域に維持され高めのインフレに転換する
それぞれについて見ていこう。

(A) 政府が歳入・歳出改革に目途をつける

これは、目先の消費増税+5%が実現し、その後も増税・歳出削減が進むというシナリオだ。
プライマリー・バランスが一定の幅の黒字を維持しつづけ、政府の純債務が減少する。
経済はマイルドなインフレに転換し、名目金利も上昇するが、それをカバーするだけの財政黒字を実現していくというシナリオだ。
さて実現度はどの程度だろう。

3年ほどの間に、目先の消費税+5%は実現するだろう。
公務員給与削減法案は、その大きさ・やり方について不十分だが、+5%の言い訳にはなるかも知れない。
国債金利が少々サージするだけで政府も政治家も震え上がるだろうから、そのタイミングで与野党は合意に動くのではないか。
何しろ中期的には、小沢元代表を含めて、民主も自民も一定の消費増税はやむを得ないと考えている。

ところが、その先は茨の道が続く。
さらなる公務員制度改革・行政改革は既得権益を守ろうとする役人たちの強い抵抗に合うだろう。
給与水準の引き下げだけでなく、行政組織の在り方に大胆に手を入れることが重要だが、これは高級官僚にとっては自らの利権を手放すことに他ならない。

歳出改革の本丸である社会保障改革はさらに難題だ。
経済がインフレに転じる中で、部分的に予算を削減するというのは、恩恵を失う側にはつらい。
結果、「悪しきポピュリズム」の餌食となる。
公務員制度改革・行政改革にもマージンが減る中、増税勢力が国会で与党を占めるのは難しいだろう。

そのような理由で、このシナリオが一本調子で進む可能性は極めて低い。

(B) 金融市場を正常な領域に維持できず国債が暴落する

無策な政府・国会が、何もできずに陥る最悪のシナリオであり、「終末論者」が好むシナリオだ。
当面の間、ねじれ国会または不安定な連立政権が続く中、抜本的な状況の改善策が講じられず、財政改善にインパクトのある政策が何もなされないシナリオだ。

本来は考えにくいシナリオと言うべきなのだが、昨今の社会情勢を見るにつけ、全くないとは言い切れないところがある。
ただし、このシナリオの確率は高くない。
政府が機能不全でも、まだ日銀がいる。
国が滅ぶ段階に至っては、外債の購入、国債の直接引き受けを含む量的緩和策を講じるに違いない。

仮にこのシナリオが発生してしまった場合、事態を収拾するには、消費増税や歳出削減だけでは足りなくなるだろう。
日本の金融市場の動揺が大きすぎて、抜本的な解決案に時間的な余裕が与えられない可能性が高いからだ。
具体的には、IMFなど国際機関・海外政府から、一足飛びの解決策を迫られるだろう。
そこでは、国債のデフォルトのほか、預金封鎖・新円切替・財産税などがテーマとなるだろう。

注意しておきたいのは、財産税についてである。
これは所有するストックに対する課税である。
同じ性格の税には相続税がある。
考えてみれば、財産税は相続税の前取り・税率引き上げの性格を持つ。
前取りだけなら、長い目で見れば財政への寄与は小さなものだ。
意味をなすためには、税率を高くし、かつ、財産の捕捉を徹底的に捕捉することが必要となる。

(C) 金融市場が正常な領域に維持され高めのインフレに転換する

最後は、国家が債務償還ではなくインフレ誘導によって実質的に債務を削減していくというものだ。
これまでFinancial Repression頭のないカマキリなどと紹介してきた手法である。
日本国債の保有者はほとんどが日本人だから、主に国内投資家からの収奪であり、国際社会からの非難は少ないだろう。

(2)では、最終的に日本人の金融資産の1/3を収奪すればよいとした。
ならば、そのようにインフレを起こせばよい。
中長期のホライズンで、通貨の価値を2/3に減じるようにマネーサプライを拡大させる。
結果、1/3の金融資産の価値を実質的に減じることができるかも知れない。

しかし、この効果は資産クラスによって異なってくる。
債券・預金からの収奪が大きく、株式や不動産投資信託からの収奪は小さい。
だから必要となるインフレの幅はもう少し大きくなるかも知れない。
結果、資産クラスごとに相当に不公平な税ということになる。

また、かなり高いインフレ率が必要となる一方で、名目金利の上昇が国債の暴落を招きかねないという意味でも、相当に難しいさじ加減が必要となる金融政策である。

どれもこれも想像しがたいシナリオ

極端なシナリオを紹介しているから当たり前なのかも知れないが、どのシナリオもいかにもありそうにない。
全く違うシナリオが他にあるのか。
(A)-(C)の間に隠れたシナリオがあるのか。

筆者が予想するメイン・シナリオは(C)だが、注意が必要な点がある。
それは金利の一時的なサージだ。
 ・3月末-6月の日本の政治の混乱
 ・大統領選を控えた年末の米国の不安定さ
 ・大統領選挙後の米国政治の変化
このようなタイミングで、ヘッジ・ファンドが国債の売りを仕掛けてくる可能性は否定できない。
とりあえず、今年から来年初にかけて、日本国債は「売り」なのではないか。

(了)

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