【書評】金融依存の経済はどこへ向かうのか

池尾和人 慶應義塾大学教授らによる。
実体経済を金融経済が凌駕している世界の行方を問う。

 

このタイトルを見て、筆者は世界が「どこへ向かうのか」を知りたくて読み始めた。
しかし、残念ながら実務者にとっての「どこ」までを教えてはくれない。
ストーリー性のある読み物というよりは、たんたんと進む描写と分析の本である。

それでも十分読むに足る出来になっている。
ところどころに金言とも言うべき記述・分析があるのだ。
いくつか紹介しよう。

 
池尾和人教授によるFinancial Repressionについてのコメント

資本移動が自由である限り、一国が金融抑圧政策を導入して金利を統制しようとしても、資本流出を引き起こすだけで、その有効性は限られる。
ただし、主要な先進国が一斉に金融抑圧政策を実施すれば効果を持つ可能性はあり、世界の現状はこれに近いと考えられないこともない。

前半は国際金融のトリレンマのことを言っている。
後半はトリレンマを克服してFinancial Repressionが効いているように見える現状を解説している。

不吉なのは、後半の条件が覆る可能性だろう。
つまり、米経済が回復するとか、新たに健全な先進国が台頭したりするケースだ。
その時、Financial Repressionは効果を失う。
言い換えれば、健全な先進国に不健全な先進国から資本逃避が起こり、不健全国の金利は高騰し、政府が利払いをできなくなるのである。

高田創氏による日本の政府債務拡大

国債は過剰債務を片代わって積み上がった「身代わり地蔵」であった。

日本が高度成長を終え1980年代後半のバブルを迎えた。
そこで積み上がった民間の債務を国が肩代わりしてきたとの歴史観だ。
バブル後の需要不足を公共部門の支出で補ってきた結果、日本の莫大な政府債務が出来上がった。

小黒一正准教授による異次元緩和の出口戦略

2006年の量的緩和の解除で、日銀は長期国債の買い入れ(グロス)を毎年約8兆円ずつ減少させていく方針をとったことを意味する。

2006年の量的緩和解除では金利の上昇を招き、日本経済はデフレに逆戻りした。
その経験から、前回の8兆円という数字は一つの目安となるだろう。
小黒氏の試算では、国債買い入れ(グロス)の減少を毎年
 ・10兆円とすれば、日銀が抱える長期国債は2018年に286兆円
 ・5兆円とすれば、2020年に347兆円
でそれぞれピークを打つという。

異次元緩和とはなんと長い道のりなのだろう。
量的緩和やFinancial Repressionという手法は厳しい隘路だ。
世界のどこかで仮に不合理な市場の動きが起こっても、坂道を転げ落ちる危険はいくらでもある。
日本は細い細い道を歩いていかなければいけない。
5年たっても中央銀行のリスクがピークを打つに過ぎない。