【書評】連続講義・デフレと経済政策 アベノミクスの経済分析 (2)

この本のいいところは、実務家や生活者が思い違いをしていることを気づかせてくれるところだ。
いくつか例を紹介したい。

昭和初期の不況から日本を救ったとされる高橋是清のリフレ政策

高橋財政期には国債の消化のため日銀が国債を直接引き受けたことが知られている。
この事実はリフレ擁護派の心情的な支えとなっている。
池尾教授はこの誤解を指摘する。

高橋財政期における日銀引き受けは、売りオペ(民間金融機関への売却)を前提として行われた

ことを説明し、「高橋財政期中は総引受額のほぼ90%を売却」したというファクトを示している。
つまり、高橋財政期の日銀引き受けは、日銀が国債発行の幹事証券の役割を担っていたに過ぎないのである。

金融・財政政策に反動はあるか

筆者もそうだが、金融政策にも財政政策にもプラスはあるが、同程度の反動があると考えている人は多い。
それらは需要の先取りに過ぎないとの考え方だ。
そのリアリズムに対し、池尾教授は例外のケースを提示している。

均衡状態が複数あり得るときには、・・・
政府が政策的にショックを加えることで、
一つの均衡状態(悪い均衡)から別の均衡状態(よい均衡)に移行させられる可能性がある

というのである。
閉塞状態にある経済にショックを与えることで、閉塞していない経済をもつパラレル・ワールドに逃げ出すような話である。
質的・量的金融緩和を「異次元緩和」と呼ぶ由来はこんな切なる願いにあるのだろう。

金融抑圧と金融抑制を区別すべき

池尾教授はジョセフ・スティグリッツの意見にしたがい
 ・金融抑圧: 実質金利をマイナスにするほどの低金利政策
 ・金融抑制: 実質金利はマイナスにならないほどの低金利政策
を区別すべきと述べている。
前者は預金者から富を収奪するものの、後者はまだ実質ベースでは富が失われないからだ。
前者は隠れた徴税であり、後者はその意図まではない。

池尾教授は、
 戦後の先進国の低金利政策は金融抑制の範囲であった
 しかし、今後は金融抑圧が不可避となってくる
と予測している。
つまり、今後は預金者が国から富を収奪されることになるのである。

米国では量的緩和QEにより一時、実質金利がマイナスとなった。
それが、QE縮小期待が芽生えるにつれてプラスに回帰してきている。
一方、日本の場合、異次元緩和によって実質金利はマイナス圏に保たれている。
黒田日銀総裁は、景気刺激策として実質金利を低く抑え込むことに注力しているのである。

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