【書評】日銀はいつからスーパーマンになったのか(1)アベノミクスの評価
バークレイズの北野一氏が2月に上梓した。
北野氏がJP Morgan時代から、レポートや著書を好んで読んでいる。
同氏の著述のすばらしいところは、経済・市場にかかわる文章であると同時に、同氏の思想がはっきりと反映されているところだ。
実は、北野氏の思想は筆者のそれとは全く相容れない。
筆者は投資家の立場に身をおいていること、事業会社で経営に参画した期間が長いこともあり、米国流とは言わないもののコテコテの株主資本主義者である。
一方、北野氏は、古き良き日本がそうであった(?)、ステークホルダー間のバランスのとれた企業統治の復活を唱えている。
本書の特徴は、以前の著書と比較しても、圧倒的に文字が多いこと。
この本は経済書というよりは思想の本である。
以下、興味を持ったところを紹介しよう。
北野氏は、いいことがあると「アベノミクスのおかげ」と枕詞をつける風潮を批判している。
一昨年からの市場回復はアベノミクスのおかげではなく、ただただそういうタイミングだっただけとする。
アベノミクス相場の寿命は4か月であった。2013年1月から5月までだ。
もう、すでに終わったと私は考えている。
これは、HSCIが2月に「日本株の魅力(2)リターンは米国株と同程度にすぎない」で検証した数字と一致する。
「期待」に働きかけた異次元緩和の効果は、実行に移されたあたりで終わっているように思える。
世の中では、3本の矢のうち異次元緩和が最も効果的と評価されていると思う。
北野氏はその異次元緩和についても否定的だ。
ナチス・ドイツの宣伝相ゲッペルスの
小麦の価格を上げつつ、パンの価格を下げる
という言葉を引いて、
「インフレ期待を上げつつ、長期金利を下げる」という量的・質的金融緩和は、この小麦とパンの話に少し似ている。
しかも、それが民意であるから、逆らえないという意味においてもだ。
ナチス流のポピュリズムになぞらえるところ、相当に辛らつな批判である。
本書のタイトルに戻ろう。
白川日銀総裁の時代、日本経済が奮わないとそれが日銀のせいにされた。
白川総裁時代に、すでに日銀は数々の非伝統的な策を講じたのに、である。
それが、異次元緩和となって、あたかも日銀がなんでもできるかのように見られている。
異次元緩和がスーパーマンのように問題を解決してくれ、これからも解決してくれると思われている。
本書はその浅薄な風潮に釘を刺すものだ。