【書評】量的・質的金融緩和 – 政策の効果とリスクを検証する
日本経済研究センター理事長 岩田一政氏が編纂した異次元緩和を検証する本。
良書である。
現金融政策を客観的にとらえた本
岩田氏は経済企画庁などを経て東京大学教授、日本銀行副総裁を歴任した。
氏の経歴どおり、本書は学問的にも正統的な作法で書かれている。
数年後、数十年後に今の経済政策を回顧したいと考えたら、まっさきに読み返す著書の一つとなるだろう。
ただ、それだけに実務家にとっては物足りない。
今日的なメッセージが弱いと感じてしまうところがある。
量的緩和の出口で起こる中央銀行の財政悪化
実務家にとって本書の中で最も興味を持つのは「第4章 金融緩和策の出口で発生するコスト」であろう。
出口においてはマネーベースが縮小され、金利の上昇もあるだろう。
その時に社会の様々な部分でコストが表面化する。
その重大な1つが日銀のバランスシートの劣化である。
保有する膨大な国債等の時価が金利上昇により下落、時価ベースで言えば、日銀は容易に債務超過に陥りかねない。
これは過去に問題があったということではなくて、日銀はつぶれない前提だから純資産は少なくてもいいという考えによるものだった。
ところが、量的緩和によって日銀が想定外の資産保有を始めた。
すると、保有資産の価値の変動リスクと純資産額のミスマッチが問題になってくる。
第4章ではこの問題を
国債買入停止は経常利益を減少させ、国庫納付金支払い停止を招く
と議論している。
異次元緩和が出口を迎え、国債買入れを停止すると、保有国債の残高が減少に向かい、受取利息が減少するというのだ。
利益が減少するため国庫納付金(民間企業の配当に当たる)も減少する。
さらに、日銀の最終損益がマイナスとなった場合、薄い純資産では健全性を保てない。
ところが、1998年の日銀法改正では、国が日銀の損失を補てんする、いわゆる「損失補填規定」が廃止されている。
日銀の財務の健全性が揺らぎ、通貨の信認が揺らぐことが懸念されている。
非常事態ではなんでもあり
この議論は正しい。
正統的であり、思慮深いことだ。
あえて会計的な分析を用いたのもまっとうな考えがあってのことだろう。
しかし、それでも世の民は、この議論のしかたでは満足できないのではないか。
日銀の損益がマイナスになろうと、一義的にはそれは日銀の問題でしかない。
国庫納付金がなくなろうと、それは政府と日銀の間の話だ。
損失補填規定がなくなっていようが、政府・立法府・日銀が必要と思えば復活させればいいことだ。
世の民にとっての関心ごとは、円の価値が維持されるのかの一点である。
日銀の純資産が不足するなら、法律を作って増資をすればいい。
損失補填規定には日銀の独立性の問題という側面があるのだが、非常事態ではそんなことを言う人もいなくなるはずだ。
日銀が破綻の危機にある時に、日銀の独立性が最重要だから破綻させるべきだ、などと言う人はいまい。
また、最近の与党からの圧力を見ると、すでに日銀の独立性など存在しないように感じられてしまう。