ラグラム・ラジャン:金融緩和による無益な問題のつけ回し
ラグラム・ラジャンRBI(インド中央銀行)総裁がProject Syndicateに寄稿している。
一つ一つの出来事を歴史の中でとらえ直す、この人の目線の高い分析眼はすばらしい。
ラジャン氏は、先進国と新興国の「危うい共生関係」という視点から金融危機を捉えている。
2008年のリーマン危機の前まで、新興国と先進国は、資本フローと需要において危うい共生の中に囚われていた。
これは、1990年代終わりの新興国危機の前の同様に危ういパターンを反転させたものだ。
2008年のリーマン危機の結果、パターンは再び反転した。
資本は先進国から新興国市場に流入し、脆弱性が増した。
そのことは、先進国の金融引き締めとともに、注目を浴びることとなった。
1990年代には、低金利の日米から比較的高金利の新興国へ資本が流入するパターンがあった。
それが、アジア危機で反転、新興国からの資本逃避が起こった。
その後、資本は先進国へと流入するパターンとなり、欧米で過度な信用拡大を引き起こした。
これがサブプライム・リーマン危機で崩壊する。
パターンは逆転し、先進国から新興国へ資本が流入するパターンとなった。
これが、米QEの終了とFF金利引き上げで転換点を迎えている。
ラジャン氏は世界の金融政策に秩序がないことを問題視している。
IMFが各国の金融政策に不適切なものがないか監視すべきとしている。
現在の《しくみのないしくみ》は、世界の金融緩和合戦を助長している。
それは、誰の利益にもならない。
自由貿易と責任ある世界市民としての姿勢を推進し、偏狭な動きを排除することこそ、世界が切に必要とする持続性のある成長の基盤となるものだ。
国内政策という見え透いたウソを抜け道に、通貨安誘導という近隣窮乏化政策を続ける各国中銀を厳しく批判したものだ。
背景には、新興国がこうした近隣窮乏化策に振り回されていることがあるのだろう。