【Wonkish】均衡金利の前にあった見えない壁
目新しい話ではないのだが、過度の金融緩和が金融システムの本来的機能を阻害するという話が再び注目されている。
目新しくない話が注目されるのは、それが日銀の黒田総裁によって言及されたものだからだ。
「金融仲介機能への影響という点では、最近、『リバーサル・レート』の議論が注目を集めています。
これは、金利を下げすぎると、預貸金利鞘の縮小を通じて銀行部門の自己資本制約がタイト化し、金融仲介機能が阻害されるため、かえって金融緩和の効果が反転(reverse)する可能性があるという考え方です。
日本の場合、日本の金融機関は充実した資本基盤を備えているほか、信用コストも大幅に低下しており、現時点で、金融仲介機能は阻害されていません。」
黒田総裁は13日チューリッヒ大学での講演でこう述べた。
最後の「金融仲介機能は阻害されていません」というのは建前の話だろう。
日銀が昨年1月にマイナス金利を導入した際、短期側の金利だけが押し下げられればよかったものの、イールド・カーブは思いのほか全体的にシフトした。
結果、金融機関の利ザヤを圧縮し、信用創造へのインセンティブを奪うとの指摘を浴びることとなった。
そうでなくとも長く続いた金融緩和で金融機関の収益は圧迫されており、預貸金で利ザヤを稼ぐのは難しい状況だった。
金融庁が地域金融機関に合併やビジネス・モデル見直しを促してきたのもそのためだ。
従来の預貸金業務以外に新たなビジネス・モデルを開発しろとは、半ば信用創造の営みへの集中を軽くしろとのメッセージにも感じられなくもない。
さまざまなリパーカッションを目の当たりにし、日銀は昨年9月「総括的な検証」に踏み切る。
量の目標を後退させ、コンスタントに緩和するのではなく、明確に目標とするイールド・カーブを意識し、それを実現するようにオベを行うやり方に切り換えたのだ。
その意味で、日銀は「リバーサル・レート」の趣旨をすでに認識していたのである。
ただし、日銀の設定したイールド・カーブはリバーサル・レートを意識したものではなく、自然利子率や均衡金利・中立金利を意識したものになっている。
(次ページ: リバーサル・レートという限界)