【書評】経済成長という呪い-欲望と進歩の人類史
フランスの経済学者、思想家、パリ高等師範学校 経済学部長 ダニエル・コーエン氏が現代資本主義の選択肢を問うた本。
テーマは「現代社会は、経済成長なしでも持続できるのか」である。
ほとんどの国が経済政策の目標に経済規模、とりわけGDP(またはGNP)の成長を採用している。
それは世界の常識と言ってよい。
しかし、多くの人が一度は考えたことがあるのではないか。
本当に経済成長なくして幸福はないのか、と。
経済成長を必須とすることで経済政策には大きな制約が課される。
もしも全体のパイを増やすことを目標としないなら、もっと多様な選択肢が存在するのではないか。
もちろん、多くの先進国で政府債務が莫大な規模に達しているから、経済成長なくして財政の持続可能性を主張するのは難しい。
しかし、できもしない経済成長、できもしない財政再建を目標にしたところで何の意味があるのか。
どうせ少なくともどちらかは実現できず、悪い結果を迎えるだけではないか。
それならいっそ、経済成長を追い求めない中で、幸福を目指す道はないのか。
幸か不幸か格差が拡大してきているから、全体のパイが変わらなくても分配を変えることで国民の幸福度は向上しうるのではないか。
経済成長という前提をはずせば、これまで見えていなかった道が見えるようになるのではないか。
無理な金融緩和も財政拡大もせずにすみ、政策が歪みを生じさせる度合いも低かったのではないか。
本書は人間のサガ、人類・文明の習性など幅広い分野を見直し、新たな選択肢を見出そうとしている。
しかし、その視点は極めて現実的なもので、何かよさそうなものに安易に期待したりはしない。
ポスト工業社会の優等生としてデンマークの例を挙げ、その社会の好循環を紹介している。
その直後、フランスがデンマークのようになるのは現実的でないとも指摘している。
著者にはいいかげんなハッピー・エンドでお茶を濁すつもりは毛頭ないのだ。
極めて広範なテーマを検討した結果、最後に著者は著者なりの結論を下す。
読んでのお楽しみだが、筆者はそれを読んだ時、思わず唸ってしまった。