【書評】1985年の無条件降伏-プラザ合意とバブル
元読売新聞の岡本勉氏がプラザ合意以降の経済・社会について克明に記した本。
トランプ政権が保護主義の色を強めている今とてもタイムリーな話題をカバーしている。
元新聞記者の著作らしく、読みやすく楽しめる内容になっている。
282ページの新書であり、あっという間に読み終わる。
タイトルからわかるように、岡本氏はプラザ合意をネガティブな出来事として捉えている。
本書に流れる自身の歴史観を述べている。
85年にプラザ合意を受け入れたとき、日本経済は、すべてが変わった。
円高も、バブルも、バブル崩壊も、失われた20年も、アベノミクスも、すべてプラザ合意が源流となっている。
楽観のスタート
プラザ合意直後、日本はこれをさほどネガティブには捉えていなかった。
日本政府は適度の円高進行を約束したわけだから、円高も「成功」と捉えられた。
1ドル240から229円への急騰についての日銀幹部のコメントがそれを表している。
「よかったですね。
でも、もっと円高になってもらわないと。」
岡本氏は当初のG5の円高想定を25%と推測している。
240円から180円への円高にあたる。
さらに円高だけでは日本の貿易黒字が十分縮小しないとの考えから、有名な「前川リポート」が出され、内需拡大が提案されることとなった。
日本が輸出依存を脱するため、政府支出を含む内需を拡大するよう勧めたものだ。
バブル醸成の原材料
ドル円はその後180円を通過、160円を割り込み、これが円高不況をもたらす。
1ドルで売っていた輸出品があったとすれば、プラザ合意前は240円の実入りだったのに、この年には160円以下になってしまったのだ。
値上げすれば少しは価格下落幅は小さくなるが、当然、輸出量は減ってしまう。
薄利多売を得意とする日本企業にとっては厳しい選択だ。
まだ輸出依存がはるかに高かった日本経済が不況に陥るのは自然なことだった。
日銀はこれに対応して1983年に5.00%だった公定歩合を1987年2月までに5回にわたって2.50%まで引き下げている。
この金融緩和がバブルを生んだのは皆が知るところだ。
さらに、岡本氏は、やや遅れてやってきた円高メリットや財政政策が効いたと指摘している。
円高は悪いことばかりではない。
交易条件の改善を通して、日本経済にメリットももたらしている。
さらに1987年のブラック・マンデー後の財政政策が景気を刺激した。
金融・財政政策と円高メリットがバブルを大きくしたのだ。
後から振り返れば、87年のブラックマンデーは、株式市場のちょっと大きな調整に過ぎなかったのである。
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