【書評】欲望と幻想の市場 伝説の投機王リバモア
天才的投機家と言われるジェシー・リバモア(1877年-1940年)の伝記小説。
「おれ」の一人称で書かれており、肩の凝らない内容になっている。
合百と呼ばれる株式のノミ取引所でテープ読みをしていた少年が伝説の投機王に成長していくさまが、一人称で語られる。
若者が成長していく物語であるとともに、まだ未熟だった株式市場の物語でもある。
今では考えられないやり方が証券業者にも顧客にも認められていた時代だ。
新債券王ジェフリー・ガンドラック氏は推奨図書を尋ねられるとリバモア関係の本を挙げる。
相場の世界は基本的にリバモアの時代と変わっていないという。
リバモア自身が一人称で言っているように、彼がやっているのは投資ではなく投機である。
ところが、不思議なほどそのメッセージの多くは投資にも通じる。
「おれは毎日、午前10時から午後3時までは相場にどっぷりつかり、3時以降は生活を楽しんだ。
・・・今でもおれは午後10時には就寝するのを日課としている。」
リバモアは生活を楽しんだといいながら、若い頃から夜更かしはしなかったという。
相場が体力勝負であることを骨身にしみて知っていたのだろう。
そして、なぜ体調が重要かと言えば、投機には常に正しい判断が必要で、それには精神状態を平静に保つことが重要だからだ。
こうした話は、投機とは真逆のスタイルをとっているレイ・ダリオ氏を彷彿とさせるほどだ。
「投機的に株を売買している人は数知れずいるが、儲けをあげている人となるとその数は限られてくる。
一般大衆は常にある程度までは相場に参加しているから、常に損失を出しているとも言える。
投機家にとって最大の敵は無知、欲、そして恐怖と希望の感情である。」
こうした表明も「投機」を「投資」に変えるだけで、程度の差こそあれそのまま生きるものだろう。
最終章ではインサイダー情報について書かれている。
「インサイダーからもたらされたとする情報の多くは、実際はまるで根拠がない。」
一般投資家にまで聞こえてくるインサイダー情報は、誰かが自身に有利なように相場を誘導したくて流すものだと断言している。
そうした情報に基づいて取引をすれば「簡単に破綻に至る」といい、乗ってはいけないと戒めている。
さらに、もう一つ気になる戒めを述べている。
相場に手を出すものは誰でも、個々の銘柄の取引では成功を重ねたとしてもあまねく相場全体において勝ち続けることはできないと思う。
マーケット・タイミング戦略で継続的に利益を得ることが不可能と言いたいのだろう。
投機家の言は実に常識的なのだ。
しかし、これを認めてしまうと、ETFや外国為替のトレーダーなどは居心地が悪い思いをするのではないか。
リバモアが敬愛されるのにはもう一つ理由がある。
本書を読めばわかるとおり、リバモアは何度も失敗し、破産し、そこから学び復活・成長した。
破産すれば、債権者の債権はカットされることになる。
リバモアは失敗から再起する度に、再び手にした大きな富で債権カットをしてくれた債権者に返済をしたのだという。
こうした法を超えた仁義が人々に愛される。
倒産で焼け太ってきたどこかの国の大統領とは大違いなのである。