【書評】世紀の相場師ジェシー・リバモア
以前の書評に引き続き、投機家ジェシー・リバモア(1877年-1940年)の伝記小説を紹介しよう。
こちらは「ウォール街のグレート・ベア」と称された、売り方としてのリバモアに焦点があたっている。
グレート・ベアの人生のピークと言うべき、1929年の株式市場大暴落を中心に、成功と挫折が描かれている。
1929年の大暴落とは、言うまでもなく大恐慌の引き金となった大暴落だ。
(参考)楽天ブックス:世紀の相場師ジェシー・リバモア [ リチャード・スミッテン ]
(参考)Amazon:世紀の相場師ジェシー・リバモア (海外シリーズ)
この時リバモアは、新聞各紙からクラッシュの原因と非難されていた。
リバモアが気づかれないようにショート・ポジションを積み上げていたのは事実だったが、新聞が書いたように徒党を組んで市場の売り崩しを行ったわけではなかったという。
リバモアはニューヨーク・タイムズにコメントを寄せる。
- 自分のトレーディング活動は自分1人で行っている
- 個人が市場をねじ伏せることなどできない
という内容だ。
ここで、時代を感じさせる、微笑ましい記述が見える。
「USスチールの株価を・・・一株あたりの利益で割ってみていただきたい。
得られた株価収益率は八倍から一〇倍に達しているはずである。
ほかの多くの銘柄にしても、法外としか言いようのない高値をつけており、相場が以前から危機的水準に達していたのが明らかである。」
かつて、米優良株のPER 8-10倍というのは「法外」な高値だったのだ。
まだ投資理論も発達していない時代、投資家にとって株式投資のリスクは大きく感じられたのだろう。
(実際、共有された理論がなければ価格は収束せず、変動リスクが大きくなるのは想像にかたくない。)
さらに言えば、米経済が今ほど発展していない時代だったから、債券投資のリスク(言い換えれば金利水準)も高かった。
筆者が米市場の銘柄分析を始めたころ、ダウ平均採用銘柄のPERが10倍というのはむしろ標準的だった。
金利水準が高かったし、ダウ平均には成長株より老舗が多かったからだ。
それが、今では20倍でも誰も驚かなくなっている。
経済や市場の局面ごとに相場感は変わるものと肝に銘ずる必要があると痛感させられる。
この物語は、大昔の投機家を通して、市場や人生の教訓を得ることに目的が置かれている。
伝記小説だから、リバモアの人生の浮き沈みも多く書かれているが、中心に据えられているのは市場や手口の教訓だ。
本書に特徴的なのは巻末付録「ジェシー・リバモア-投資の鉄則」であろう。
タイミング、資金管理、感情の制御を3つの柱としたルールが14ページにわたってまとめられている。
短期の投機的なトレーディングをやられている方には興味深いものかもしれない。
(長期投資やファンダメンタルズを重んじる人なら、内容の取捨選択が必要になる。)