【書評】東京五輪後の日本経済

元日銀審議委員 白井さゆり慶應義塾大学教授が昨年2017年9月に上梓した本。
金融政策から資産市場の見通しまで幅広いトピックについて踏み込んだ解釈・予想が示されている。

世界の歴史上、類をみない状況になるため、その後、何が起こるかわからないという恐ろしさが、ここにもあるわけです。

「類をみない」とは、世界の主要中央銀行がこぞって量的緩和やマイナス金利のような非伝統的金融政策を実施し、正常化の際に中央銀行の財務が傷むことを指している。
非伝統的金融政策には(期待通りかどうかは別として)プラスの効果があったのだから、その巻き戻しにはマイナスの効果があるのは間違いない。
問題はそれが危機的なものか、それともソフトランディング可能なものかであろう。
白井教授は何が起こるか断言することはせず、率直に予想がつかないと述べている。
そして、こうした不透明性自体が市場・経済にマイナスに働きうると示唆している。

白井教授は、白川前総裁時代の2011年に日銀審議委員に就任した。
黒田総裁は2013年に総裁に就任すると、すぐさま異次元緩和をスタートさせた。
この時、白井教授は異次元緩和導入に賛成をしている。

「私自身は、日本銀行は異次元緩和のような大胆な金融緩和をやるべきだったと思います。
・・・実際にやってみたことで、思ったよりも効果がないことがわかりましたが、他国の中央銀行にも、これまでたくさんの失敗を重ねながら、前進してきたという歴史があるのです。」

突出した日銀の金融緩和

任期満了が近づく2016年1月の金融政策決定会合で、マイナス金利政策導入について、白井教授は反対票を投じる。
マイナス金利政策が日本の事情に即さない、また、強い金融緩和の継続による副作用が見過ごせなくなってきたためだ。

実際、日本のリスクは他の先進国と比べても飛び抜けている。
日銀のバランスシートの膨らませ方、つまり買い入れた金額規模だけでなく、その内容に問題があるという。
白井教授は、日本では買入れ対象の大部分が国債であるのに対し、FRBはMBS、ECBはカバードボンドの買入れも多いと指摘する。
日銀は(やむなく)国債買入れに大きく依存しており、これが国債市場の機能不全を助長している。
また、国内金融機関から国債を買い入れることが結果的に、それら金融機関の運用難をエスカレートさせている。

異次元緩和の出口は2020年頃

白井教授は、国債買入れの限界が近づいていること、副作用も看過できなくなっているとして、異次元緩和の出口の必要性が増していると指摘する。
東京オリンピックの時期を軸に、切迫した危機感を述べている。

「そのタイミングは、東京五輪『後』ではなく、東京五輪『前』に訪れるのではないかと考えています。
・・・いずれにせよ、実際に東京五輪が開催される頃までには確実に、日本銀行は『出口』へと向かわざるを得ないでしょう。」

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