【書評】次なる金融危機(スティーヴ・キーン)
キングストン大学 スティーヴ・キーン教授が書き下ろした迫りくる金融危機についての論考。
140ページ余りと短い本だが、レトリックなしに単刀直入に不吉な未来が予想されている。
本書が提起した問題にたいする答は、負債ゾンビ候補の金融危機は回避できないとなる。
身も蓋もないほどの断言だ。
ここで言う負債ゾンビとはどの国を指しているのだろう。
- 日本
- 米国、英国、デンマーク、アイルランド、ポルトガル、スペイン
- 中国
- (候補)カナダ、韓国、オーストラリア、ベルギー、ノルウェー、フランス、シンガポール、スウェーデンなど
先進国のほとんどが危ないということのようだ。
書かれてはいないが、新興国にも危ない国は多いのだろう。
しかし、この見方は世の主流経済学とはまったく異なっている。
主流経済学ははるかに楽観視しているはずだ。
キーン教授は、経済をより金融市場の近くで眺めているようだ。
果たして経済学者たちがマネーの専門家なのだろうか。
・・・明らかに経済学者の多くは、銀行、民間負債、マネーが経済で果たす役割を完全に無視している。
市中銀行は信用創造を通して経済に重要な役割を果たしているはずだ。
だからこそ、各国は銀行を監督する組織を通常複数有している。
しかし、主流経済学において、その銀行は「摩擦」でしかない。
多くの経済モデルにおいて、銀行等が果たす機能は添え物程度の扱いだ。
キーン教授はこうした軽視からは一線を画し、金融市場の働きを重視する。
教授によれば、総需要には4つの主たる源泉があるのだという:
・既存のマネー
・純輸出
・正味の政府支出
・貸付
「これら四つのなかで、貸付に基づく需要がもっとも変動しやすい。」
こうした見方は切り口の違いさえあれ、レイ・ダリオ氏の経済モデルにダブって見える。
短期・長期の債務サイクルが経済を大きく揺さぶるとの考えだ。
キーン教授の説明は明快だ。
日本の1980年代後半のバブル経済は貸付によって起こり、それが消えたから「失われた10年」を迎えたというのだ。
日本の民間(非金融)部門の負債
キーン教授は「フィッシャーの逆説」を引き、市場メカニズムだけでは債務対GDP比率を下げることができないだろうと言う。
「デフレ的な環境で負債を削減すると、『債務者が返済しようとするほど、負債が増加する』
・・・正味の負債返却はマネーを消失させ需要を減らす。」
財政再建を行えば名目の債務は減るかもしれないが、需要が減ることで名目GDPも減少してしまう。
だから、債務対GDP比率は下がらないという主張だ。
この論理は、財政出動論者には心地よく聞こえるかもしれないが、そうでもないらしい。
「日本のバブルが崩壊した1990年以降の経験が教えるように、政府部門の支出だけでは、民間部門の負債は低減されないだろう。」
日本の民間債務は決して以前の水準まで下がったわけではない。
だから、債務が拡大する前のような経済成長を望むべきではないという。
そして、キーン教授の結論「金融危機は回避できない」につながる。
では本当に解決策はないのか。
キーン教授は、すでに世間に提言されている2つの方法とともに自身の提案を書いている。
各国は何もしないのか。
それとも、キーン教授が挙げた3つの選択肢のどれか(またはそれ以外)が実行されるのか。
読者自身が本書を読んだ上で判断していただきたい。
なぜなら、それは読者の投資判断に決定的な違いを生み出すだろうからだ。