【書評】熱狂、恐慌、崩壊-金融危機の歴史(原著第6版)
『熱狂、恐慌、崩壊 – 金融危機の歴史』(原著第6版) はMIT教授・アメリカ経済学会会長などを歴任したチャールズ・キンドルバーガーらによるバブルと金融危機についての古典的著作。
第6版の訳書が2014年に出版されている(原著は2011年出版)。
先日マーク・ファーバー氏が推薦していた。
以前の版は読んだ記憶があるが、今回第6版を読んでみた。
リーマン危機後まで含んだ内容となっている。
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本書は、歴史の中で何度も繰り返した信用バブルの共通点をあぶり出す。
さらには、過去30年間に発生したバブルには(類似だけでなく)下地と結果の関係があると主張する。
こうした主張を裏付けるべく、多くの事例を分析・紹介していく。
本書は冒頭で人類史における「十大金融バブル」を挙げている。
日本の1980年代後半のバブルもそのうちの1つだ。
10のうち3つは18世紀と大昔の話だから、事実上7大バブルのうちの1つといった方がいいかもしれない。
いずれにせよ、歴史に残るバブルの1つとして、本書では何度も何度も言及される。
各章で着眼点が変わっていくから、同じ事例が再び現れるごとに読者の理解は広角になっていく。
何が共通点「パターン」であるのかは、本を読んでのお楽しみにしたい。
意外性のある答ではないが、それでも自己流のあいまいな理解を整理整頓してくれるだけの説得力がある。
巻末には「金融危機の類型一覧表」が付されており、本文と合わせて丁寧な事例分析が説得力を高めているのだろう。
逆にパターンの例外を1つ挙げよう。
それが、日本の1980年代のバブルだ。
1980年代初頭以降、特筆すべきは、ほぼすべての銀行危機に通貨危機が絡んでいる点である。
パターンの一端は、銀行危機が通貨危機をともなうことなのだ。
ところが、バブルの発生から銀行危機に至る過程こそパターンにはまっているのに、その後、通貨危機をともなわなかった例があるのだという。
数少ない例外が日本のバブル崩壊とアイルランドの銀行危機(2008-09年)とされている。
アイルランドの場合、共通通貨ユーロのおかげだから、事実上の例外は日本だけだ。
もちろん、これは日本が経常黒字国であったことが大きな要因だろう。
むしろ、バブル崩壊が円高を招いたと書いている。
「1991年の景気後退で、日本の輸入が大幅に鈍化する一方、輸出は急増した。
一部の企業は、自社の供給能力に比べて国内市場の伸びが鈍いことから、海外市場での販売を加速させた。
輸入の伸びが鈍化し、輸出が急増した結果、日本の貿易黒字は急増した。」
他国の危機とは異なり、通貨危機どころか通貨高が起こったと紹介されている。
貿易黒字国ならではのこうした側面こそが、円や日本国債への信仰を維持し、財政拡大・マネタリーファイナンスを推す人たちの自信につながっているのかもしれない。
もっとも、バブル崩壊後、日本の経常黒字の中身は大きく変化した。
製造業のマインドも輸出から海外生産に大きくシフトしている。
長い目で見れば、いつまでも危機で円高という展開が続く保証はないのかもしれない。