【数字】ファイナンス界の占い師たち
筆者は占いというものに全く興味がないのだが、占いを業とされている方たちはなかなか科学的なのだという。
なんでもCold Readingと呼ばれる一連の話術を用いて、さまざまなことを言い当てるように見せるらしい。
少し前の米国のドラマで『メンタリスト』というのがあったが、そこでもそうしたテクニックが描かれていた。
これと同じ業態が投資の世界にも存在する。
よく取引先から尋ねられる質問:
「フィナンシャル・ポインターで取り上げる人物の選定基準はあるの?」
明確に定まっているわけではないが、私たちには明確な好みがある。
それは、着目するファクトについてブレがないことだ。
もちろん結論にも興味はあるが、それ以上に重要なのは、そこに至ったファクトとロジックだ。
ここがブレる人は価値がない。
実際、ここがブレる人はとても多い。
特に日本のセル・セルサイドのストラテジストやアナリストには、結論ありきで議論する人が少なくない。
結論とは「Buy」、譲って「Hold」だ。
景気のいい話をするために、その時々で都合のいいファクトとロジックを持ち出す。
都合の悪い話はそっと添えるか、最悪の場合、呈示さえされない。
これは明らかに顧客の利益に反する。
こういう人たちはいったいどこを向いて仕事をしているのだろう。
たまたま手元に1991年以来のTOPIXの月次終値があったので、この間の月間リターンを分類してみた。
・プラス: 181回
・マイナス:163回
トータル・リターン(配当込み)にするともう少しよくなるだろうが、それでもプラスになるのが全体の2/3を超えることはあるまい。
ならば、少なくともバイアスのない予想者は1/3超の期間は下落と予想すべきなのだ。
しかし、特にセルサイドにおいては下落を予想することが圧倒的に少ない。
顧客に対し誠実に商売をする気持ちがあるなら、予想者は自身の予想をカリブレーションすべきだ。
さもないと、食べログの口コミより悪質と言われかねない。
食べログの口コミは、もしかしたら顧客のためのバイアスかもしれないからだ。
さて、同じ期間についてS&P 500についても同じ分類をしてみた。
・プラス: 219回
・マイナス:125回
やはり米市場は圧倒的に上げる局面が多い。
トータル・リターンにすればさらに差は開く。
米国でも強気予想に偏った予想者は多いが、日本と比べ当然との面が強いことになる。
フィナンシャル・ポインターがリスクの棚卸を1つの目的としながら、エクスポージャーを維持するよう奨める傾向にあるのもこのためだ。
この日米の差の原因は明らかだ。
調べた期間における通算リターンは
・TOPIX: -7.2%
・S&P 500:814%
誤植ではない。
この間、日本株は微減となったのに対し、米国株は9倍超になったのだ。
ここから見ても、米国株で強気予想が多くなるのは当然だし、日本株ではもっとスクウェアになるべきことがわかろう。
さて、ここで筆者はある不誠実なデータの取り扱いをしたことを告白しよう。
TOPIXのデータについてインセプション以来の数字が見当たらなかったがために、手元にあった1991年以来の数字を使った点だ。
これはバブル崩壊直後からのデータ・セットであり、誤解を与えかねないものだった。
では、1969年のインセプション以来ではどうだったか。
JPXのウェブサイトからグラフを引用する。
つまり、バブル崩壊前ははるかに上昇傾向が強く、すべてのデータ・セットで分析すれば結果のイメージは変わっていたであろう。
しかし、筆者は結論を変える必要があるとは思わない。
バブル崩壊の前後では、明らかにノーマルのありようが変化したように見えるからだ。
この意味で、過度に強気バイアスを持った予想者とは、市場が大きく変化したにもかかわらず、オールド・ノーマルの世界で生きている人たちと言えるかもしれない。
逆に、これが私の誤りである可能性も否定しない。
もしも私が誤っていれば、日本市場はかつての一本調子な上げ相場に回帰するのであろう。
これは私にとっても喜ばしいことであり、心から私が誤っていることを願いたい。
最後に付け加えると何とも意味ありげなチャートの形ではないか。
浜町SCIではテクニカル分析を用いていないが、それでも何か心を動かされる形状だ。
逆三角持ち合い、逆ペナントとでも呼べばいいのだろうか。
起点をバブル時の高値とするなら、次はどこに向かうと読み取ればいいのだろう。
山田 泰史
横浜銀行、クレディスイスファーストボストン、みずほ証券、投資ファンド、電機メーカーを経て浜町SCI調査部所属。東京大学理学部化学科卒、同大学院理学系研究科修了 理学修士、ミシガン大学修士課程修了 MBA、公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。
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