【輪郭】この変化はゆでガエルなのか?

私たちの投資手法において、この10年で1つ大きく変わったことがあった。

バリュー投資に取り組む時、ウォーレン・バフェット氏らの影響を受けないことは難しい。
私たちも例外でなく、大いにバフェドロジーの影響を受けている。
ただし、バフェドロジーはクセが強い。
なんとかバフェドロジーとオーソドックスな金融理論の折り合いをつけ、抵抗の少ない形でミクロ分析・スクリーニングに用いられないかと苦心してきた。
当初の運用ポートフォリオの投資先は(当然といえば当然だが)強い収益性のみならず、健全なB/Sを備えた先だった。
2000年のITバブル崩壊後、日本市場には驚くほどこの条件に当たる銘柄が存在した。
長く待つ覚悟があれば、多くは満足なリターンを上げたし、途中で高値で買収されるケースも少なくなかった。

それが今、私たちの選別基準が少し変化を遂げている。
一言でいえば、私たちは借金に対してかなり寛容になっている。
P/LやC/Fには厳しいが、B/Sにはかなり妥協するようになった。
明確な意思決定による変化ではなく、自分たちでもあまり意識しないうちに変化したのだ。
理由はいくつもあろう。

  1. かつてのようなびっくりするような割安株が減り、妥協を迫られてきた。
  2. 途中で業態変更があり、その影響があった。
  3. 経済・市場に変化があり、それを反映した。

いずれもありそうなのだが、仮に1だったら怖いところだ。
刺激策に踊った市場環境に、私たちもつられていたことになる。

一方、3であるなら、これは考えどころだ。
2000年代前半、金利はじりじり低下していたが、それでも当時多くの人が、いつかそう遠くないうちに金利は上昇に転じると考えていた。
ところが、2013年の異次元緩和、昨今の財政出動を見る限り、日本の実質金利が上昇する可能性はなくなったと考えざるをえなくなった。
インフレ上昇によって名目金利が上昇することはあっても、実質金利が上昇することはないとの見方である。
それが、政府が破綻しないための必要条件の1つになっているように思える。

インフレが存在しても実質金利が上昇しないなら、借金を恐れる理由は大きくない。
この前提が確かなら、むしろ無借金こそ罪であり、企業はかなりの水準のレバレッジを効かすべきとなる。
今世紀にバフェドロジーが必ずしも奏功しなかったのは偶然だろうか。

具体的には、企業価値/営業利益 倍率、減価償却費、設備投資、レバレッジに注目している。
何年かに一度の大型設備投資をして減価償却費が上昇し、営業利益が下がった企業がよい。
こうした企業は減益や借金の増加で一時的に過小評価を受ける場合があるが、底力のある企業なら数年で利益率を戻してくるだろう。
その間、営業利益の割にキャッシュフロー(あるいはEBITDA)が良い状態が続き、レバレッジの縮小が進む。
いうなれば、公開株でLBOに参加できるような感じだ。

こうした銘柄がごろごろ存在するわけではないが、皆無でもない。
かつて私たちは借金のない・少ない企業を物色していたが、今では借金の多い企業もスクリーニングの対象にするようになった。
この変化は正しいものか、早とちりか、先が楽しみだ。