【書評】冒険投資家ジム・ロジャーズのストリート・スマート

言わずと知れたロジャーズ氏の最近の著書。
「市場の英知で時代を読み解く」との副題がついている。

自伝のように見えて、それにとどまらない。
ロジャージズムとでもいうべきものが、テーマ別に語られていく。
生い立ち、学問、仕事、投資、冒険、家族、家、経済・社会・・・
時系列で語られるのではなく、各テーマの時間がオーバー・ラップする。

幾つか根っこに大きなメッセージがある:
 政治や行政が市場を歪めることが逆効果になるうること
 世界は常に変化を続けるものであること
 (世界の中心はアジアに移っていく)
 国境を超えた自由な営みが大切なこと
 常にフロンティアを自ら切り拓く努力が大切なこと
 (北朝鮮とミャンマーに投資したいという)

いくつか印象的なエピソードを紹介しよう。

ソロスとの決別となったきっかけ

歴史に残るヘッジ・ファンド、クォンタム・ファンドで上司だったジョージ・ソロス氏とのエピソードだ。
クォンタムが株価操作の疑いを受けた時、ソロスは罪を認め実をとる決断をした。
一方、ロジャーズ氏は、潔白なものは飽くまで潔白を証明すべきだと主張した。
こんな考えの違いが、両者の別れへとつながっていったという。

最近では社会貢献に注力しているソロス氏は、どちらかといえば尊敬の対象でしかない印象がある。
それに対して、ロジャーズ氏のイメージは少し違う。
もっと親近感のわく、いわば「兄貴」のようなイメージの持ち主である。

ジム・オニールを揶揄

オニール氏は元ゴールドマン・サックスで「BRICs」という言葉を広めた人物。
ロジャーズ氏は本書の中で、オニール氏が好きだといいながら、同時に強烈に皮肉っている。
 ・中国が強大になっていくのは、BRICsと言い始める前からみんな知っていた
 ・ロシアとブラジルは商品相場の恩恵であって、長くは続かない
 ・インドはダメ
彼の指摘は、知識の集約のみによるものではない。
冒険家として辺境の地を旅し続けた者としての感覚にも支えられている。
そのような自負が、このような批判につながっているのだろう。

米国の劣化

世界の中心がロンドンからニューヨークへと移り、そしてアジアに移っていくとする。
それを先回りする形で、ロジャーズ氏はシンガポールに移住している。
米国は政治も行政も企業も社会もひどく劣化していると指摘する。

日本は「失われた10年」を2回経験したと言うが、アメリカは少なくとも2回か下手するとそれ以上、「失われた10年」を経験することだろう。
・・・
状況が悪化すれば、連邦準備銀行は破綻前に廃止されるかもしれない。
アメリカにはこれまで3つの中央銀行が存在したが、最初の2つは消滅した。
現在の3つ目も間違いなく消え去ることだろう。

では、回復の道はないのか。
ロジャーズ氏は2つの可能性を挙げる。
農業とシェール・ガス/オイルだという。

日本の島国根性

ロジャーズ氏は、移民に頼れない国が若返るための策を2つ紹介する:
 ・赤ちゃんをもっと生んでもらう
 ・老人を食用に供する
出生率が低迷する日本に対して、移民も受け入れず、老人を食用にもしていないことを無策と批難している。

ユーロ圏の問題

もう一度、本書のテーマの1つを回顧しよう:

世界はダイナミックに変化していくものだ。
作為的に抑え込まれたものはやがてバランスを欠いて爆発し、解き放たれる。
ひずんだものはどんどん均衡を失ってゆき、やがて何もかもがはじけて終わる。

こんな信念から、バブルは必ず弾けると考えてきた。
崩壊を無理に止めようとするより、一度破綻させた方が回復への近道だという。
そして、ロジャーズ氏は「売り」という形でそれを実践してきた。

ロジャーズ氏はギリシャが通貨ユーロから離脱する案を一蹴する。
仮にドラクマに戻ったからと言って、ギリシャ人は稼ぐ以上に使い続けるだろうという。
ギリシャの根本的な解決は国家破綻であるというのだ。
かつて、ミシシッピ州、ニューヨーク市、デトロイト市が破綻したことがあった。
しかし、これらが米国を離脱するということはなかったと語る。

家族・人生

投資の失敗で破産したこともあるロジャーズ氏は、最後に子供たちへのメッセージの形で読者に語りかけている:

苦労して自分で道を切り開くことにまさるものはない。
・・・
娘たちに何か1つだけ残せと言われたら、夢見る勇気を残してやりたい。
情熱を追い求める勇気、失敗してもまたチャレンジする勇気だ。
本当の失敗とはただ1つ、やってみようとしないことである。