バンコクの非常事態宣言はアジア通貨危機の再来か??

バンコクと近郊に60日間の非常事態宣言が宣言された。
円安とタイの混乱、1997年に始まったアジア通貨危機を思い出す人も少なくないだろう。

昨年4月、ソシエテ・ジェネラルは「今の円安はアジア通貨危機前に似ている」と指摘した。
何のことか回顧しておこう。

アジア危機の直前、タイをはじめとするアジア諸国は日米からの資金流入で潤っていた。
各国金利が日米の金利よりも高かったからだ。
さらに通貨はドル・ペッグであったから、1995年までのドル安局面では輸出に追い風であった。
ところが1995年の米国の「強いドル政策」により事情は変化する。
ドル・ペッグされた通貨が連れ高し、輸出に依存した各国の優位性が失われてしまったからだ。
そこで、ヘッジ・ファンドがアジア通貨をショートする戦略を始める。
ドル・ペッグ通貨だから、仮にあてが外れても損失は限定的だったことから、売り方は手掛けやすかったとも言われた。

さて、現在はどうか。
日米の空前の低金利により、ドル・キャリー/円キャリーがタイなど各国に流入していたことは97年と同じ。
米量的緩和QEの縮小やシェール革命によってドル高が見込まれている点も同じ。
さらに、QE縮小によるドル・キャリーの巻き戻しは新興国の資産・通貨を売らせている。

もちろん、当時と異なる点も少なくない
各国はこの17年の間に潤沢な外貨準備を蓄積したし、ドル建ての借入も少なくなった。
しかし、当時はなかったQE縮小という逆風も相当な脅威だ。

「バンコク閉鎖」は都市部の中流階級以上の層の反抗である。
輸出産業に逆風が吹く中で、起こるべくして起こったとも言える。

1997年に始まったアジア通貨危機では日本は相対的に傷が浅かった。
とは言え、アジア支援のために財政支出を行ったほか、円急騰・金融危機の遠因になったと言われる。

今、アジア通貨危機が起これば、やはり大きなインパクトになるだろう。
2011年のタイ洪水で日本の現地法人の操業が大きく影響を受けたのは記憶に新しい。
17年前と比べて、日本企業のアジアへの直接投資は格段に進んだ。
いまだ大きな確率とは考えないが、リスク・シナリオとして勘案することが必要だろう。