【書評】ミスター円の2冊のアンチ成長戦略論

ミスター円こと榊原英資 青山学院大学教授が今年上梓した本を2冊紹介する。
『戦後70年、日本はこのまま没落するのか』と『成長戦略が日本を滅ぼす』の2冊。

成長戦略から成熟戦略へ

ほぼ同一のテーマを論じた著書である。
前者が戦後の歴史の文脈から論じているのに対し、後者はデータによって論じている。
そのテーマとは

今、私達に必要なのは成熟社会としての日本を見つめ、そのメリットをいかに維持し発展させていくのかということではないでしょうか。

ということ。
成長戦略といった、無茶で絵に描いた餅にすぎないような話に固執しないよう戒めている。

榊原教授は、日本の成熟戦略のキー・コンセプトが環境・安全・健康であろうとし、日本はその分野でトップ・ランナーであると指摘する。
この3つに限らず、日本にはいいところがたくさんある。
無責任な財政問題さえなければ、間違いなく世界に誇れるすばらしい国だ。
これを疑う人がいるなら、しばらく日本を出て海外で働き、暮らしてみるといい。
もちろん、外国にもすばらしい点はたくさんあるが、日本のよさもまた胸にしみることだろう。

安倍政権のアベコベ

『戦後70年、日本はこのまま没落するのか』から、あと2つ心に響く言葉を紹介しておく:

現在、日本政府は「成長戦略」を政策の重要な柱の一つとしていますが、今、必要なのは「再分配政策」なのではないでしょうか。

全体のパイを大きくすることを優先し、新自由主義的な色彩が強い安倍政権へのアンチテーゼだ。

イギリスは世界進出と戦争の道を選び、日本は鎖国と平和の道を選択したのです。

ユーラシア大陸の両端の島はあるところまで逆の方向を歩いた。
さあ、これからの日本はどっちを向いて歩くべきなのか。

日本の中長期シナリオ

『成長戦略が日本を滅ぼす』では、榊原教授は3つの中長期シナリオを示している:

  • 成長率2%前後の成長シナリオ
  • 成長率1%前後の成熟シナリオ
  • 破綻シナリオ

成長シナリオが望ましいと考えがちだが、そうでもないようだ。

逆に、株式相場や債券相場にバブルを生む可能性も少なくありません。

2%成長で市場参加者が正気を失うとは考えにくいが、それが中長期的に継続するとなれば別かもしれない。
継続的な(実質)2%成長であれば、企業も投資家も本格的に投資を活発化させるだろう。
ただし、その場合の心配ごとはバブルだけではあるまい。
逆に、資産市場への投資を増やすことで、国債利回りの上昇を招き、既投資分の低リターンが大きな問題となるはずだ。
これは、バブルとは逆のベクトルとなりやすい。

(次ページ: 日本は破綻を逃れうるのか?)