【書評】世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠

ジョゼフ・スティグリッツ教授によるメディア等への寄稿の論文集。
別個の論文の集合でありながら、バランスよくまとまっているのがよい。

歪んだ資本主義が格差を生む

スティグリッツ教授と言えば、反格差、反不平等だろう。
既得権益者がレント・シーキングを続けた結果、アメリカン・ドリームのない米国が出来上がったと説く。
一部の人は、格差を資本主義の必然と言うが、教授の考えは異なる。
格差は、不公正に歪められた資本主義の結果なのだ。

より具体的な政策では、スティグリッツ教授は拡張的な金融・財政政策の擁護者だ。
「すべての人に成功の基盤を」与えることが、公正な資本主義の第一歩だからだ。
一方、レント・シーキングを狙う《えせ資本主義者》の唱えるトリクル・ダウン効果をまやかしと切り捨てる。

グローバル化のマイナス面

478ページの本にはたくさんの論文が収められているが、ここでは2014年3月にNY Timesに寄稿された『グローバル化のマイナス面』を紹介しよう。
この時点でスティグリッツ教授はTPPのことを

あらゆる人々の犠牲のもとに、アメリカのごく一部の最富裕層と、世界各国のエリート層が恩恵を得る、という状況が築きあげられてしまう危険を秘めているのだ

と評している。
ちなみに、今でも教授の考えは変わっていない。

スティグリッツ教授は自由貿易のメリットを否定するわけではない。

今日では、すでに世界じゅうで関税は低水準となっている。

状況の変化によってメリットが減少し、かわりに私利を追うすりかえが幅を利かせているというのだ。

貿易協定はアヘン戦争のようなもの

貿易協定の重点が非関税障壁に移ってきており、つまりは他国の規制に口を出し合うことになっているという。
結果、最悪の参加国が作り出される。

”規制の調和”だけをめざすなら、規制を強化して高い基準にそろえればいい。
しかし実際のところ、彼らがとなえる調和とは、”底辺への競争”を意味するのである。

高い安全基準や社会保障制度が他国から批判され、安全も生活も保障されない国が出来上がる。
スティグリッツ教授の論調は厳しい。
教授は、近年の貿易協定をアヘン戦争に喩えている。

西洋側がアヘン市場の開放を、大きな貿易不均衡を是正するために必須の措置とみなしていたからだ

と表現している。

(次ページ: えせ経済学に支えられたTPP)