【書評】 中流崩壊 日本のサラリーマンが下層化していく
ミスター円こと榊原英資 青山学院大学教授による格差社会への処方箋。
世界的に問題視される格差拡大について、日本に即した提言がなされている。
グローバル化が格差拡大を招く
榊原教授は日本の中産階級は多くが下層化していくと予想し、その原因をグローバリゼーションだとしている。
いままで国内で行われていた生産活動等がグローバルに展開すれば、日本の多くの中産階級の人々は中国やインドの人たちなどと競争しなくてはなりません。
後者の賃金のほうが圧倒的に低いのですから、同じような作業をしている場合には、どうしても賃金は大幅に下がらざるをえません。
結果、ほんの一部を除いて、日本のサラリーマンの賃金は下がらざるをえないという。
賃上げという欺瞞
この考え方は、HSCIが長年主張してきたことと全く同一のものだ。
もしも、日本の労働者の国際競争力を高めたくて、労働者の能力自体の向上が競争相手と同様程度しか見込めないなら、道は一つしかない。
日本の労働者の賃金を競合相手の国なみに引き下げるのである。
これを実現する方法は二つ: 円建てでの賃下げか円安かだ。
政府や日銀はさかんに実質賃金の引き上げを実現したいとアピールしている。
しかし、これは(中長期的には)欺瞞にすぎない。
もしも、彼らが日本の労働者の競争力を高める必要があると考えているなら、実質賃金は下がらなくてはならないのだ。
実質賃金が上昇する限り、(中長期的には)彼らのコスト・パフォーマンスはさらに引き離されてしまう。
為替とは、中長期的には、2国間のインフレ格差を反映して動くものだからだ。
格差是正は政府の仕事
榊原教授は、「資本主義経済が市場メカニズムを通じて格差を拡大することはむしろ自明」と書いている。
確かにその通りだろう。
資本主義に限らず、社会とはあまねく格差を拡大させる傾向がある。
確かに神の見えざる手も格差を縮小させることがあるが、それには長い時間がかかる。
長い時間、格差拡大が続く中で社会の弊害が増大し、ついには革命、あるいはそれに準じるような出来事がおこる。
こうした変化を待つことは政策とはいわない。
榊原教授は、格差是正を政府の仕事だと言い切る。
そして、問題の本質を再定義すべきとしている。
問題は高齢者の貧困より、むしろ若年層の貧困、あるいは、母子家庭等の子どもの貧困なのです。
そのため、「年金や医療の給付に所得制限を設ける等合理化して、その財源を若年層に対して使う」べきと提言している。
高齢者には厳しい話になるが、事実を踏まえた現実的な方法論であろう。
マイナンバー制度がスタートした。
ポイント・カードとしての利用などという枝葉末節ではなく、本質的な活用を願いたいものだ。
つまり、資産・所得の把握と徴税の徹底だ。