【書評】河野龍太郎氏 『円安再生』
BNPパリバの河野龍太郎氏が2003年5月に上梓した本。
この本、もう販売されていないそうなのだが、あえて取り上げてみたい。
13年前のタイム・カプセル
週末に久しぶりに図書館で時間をつぶすことがあって、この本が目についた。
2003年当時読んでいたかどうかは覚えていないが、手に取って読んでみたら面白い。
もう13年も前の本なのだが、議論しているテーマは現在の私たちと全く同じだ。
ただ、外部環境が大きく変化を遂げている。
2003年はITバブルや9.11の傷が癒えない時期。
日本では2001-2006年の量的緩和の中盤であった。
米国では、アジアからの資金還流が起こったが、ドットコムがダメになったため、住宅に本格的に向かっていた時期だ。
その後は、
- サブプライム/リーマン危機
- ゼロ金利政策
- 量的緩和
- マイナス金利
と未曽有の金融史が刻まれてきた。
こうした大きな変化があったにもかかわらず、13年前のもう手に入らない本書を紹介するのは、何が変わって何が変わっていないのかが伺われるからだ。
長年、河野氏がランキング上位を占めるのは、氏のディシプリンの高さであろう。
ともすると、噂話に終始するようなエコノミスト/ストラテジストが多い中、河野氏の議論は常に経済学のフレームワークに基づいている。
現実をマクロ経済の入門書に載っているような理論・関係性に当てはめ、そこから論理的に導かれる結論を述べる。
本書で13年前に述べられた内容は、そのフレームワークにおいて全く有効だ。
河野氏が今、新たに経済政策の本を書いたとしたら、目次はほとんど同じものになるはずだ。
わずかに違うのは、現実の側の変化による、結論の相違であろう。
13年前の主張
河野氏は13年前何と書いていただろうか。
- マクロ政策は問題先送りではない
ただし、日本の財政政策は所得分配の色彩が強く、景気刺激には寄与しない - インフレのコストが大きいというより、インフレ抑制のコストが大きいというべき
- 2003年のディスインフレは「各国の中央銀行のインフレとの戦いにおける勝利」が一因であり、「グローバル構造デフレ論」(趨勢的停滞論のような考え)は誤り
問題なのはサプライ・サイドではなくディマンド・サイド - 上昇経路付き、2%の物価水準ターゲット
長期国債の購入によるインフレ期待醸成が重要
マイルドなインフレ醸成のため、大規模為替介入と一時的ペッグを - 長期金利上昇は不可避
注目なのは4点目。
これを読めば、河野氏がリフレ派の草分けの一人だったことがわかる。
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