【書評】新・所得倍増論

最近2人の元外資系投資銀行アナリストによる日本論の本を読んだ。
デービッド・アトキンソン著『新・所得倍増論』とイェスパー・コール著『本当は世界がうらやむ最強の日本経済』だ。

今回はデービッド・アトキンソン著『新・所得倍増論』を紹介する。
アトキンソン氏は英国生まれで元ゴールドマン・サックスの銀行アナリスト。
コール氏はドイツ生まれで元JPモルガンの日本経済アナリスト。
いずれの著書でも、人口オーナスが続く日本経済にとって生産性向上が必要と説くものの、現状の評価や今後の方法論については随分と温度差が感じられる。
英国対ドイツと言えば、世界大戦がまず浮かび、次にEUの是非が浮かぶ。
2回の世界大戦では英国が勝利、EUでは今のところドイツが優勢。
日本論では、日本はどちらにつくべきだろう。

アトキンソン氏の『新・所得倍増論』はGDP至上主義を前提に議論が続く。
正確に言うと、1人あたりGDP至上主義だ。
この考え方は社会保障制度などを考えれば魅力的な前提であるが、実効性については注意が必要だ。
確かに特にホワイト・カラー層で日本の生産性は低いのだろうし、相当に改善の余地があるだろう。
しかし、意外と早く乾いたタオルになる可能性もある。
そしてその時、転用の難しい中高年の失業、あるいは低賃金労働が問題となるのかもしれない。

アトキンソン氏は、日本の多くの経営者が誤った経営をしていると主張する。
それは事実だろう。
彼らが経営方針を改善すれば、その企業の生産性は改善するかもしれない。
しかし、それがマクロ・レベルでも同じように生産性の改善をもたらすかどうかはわからない。

アトキンソン氏は「日本型資本主義」を見直し、経営者は利益、ROE、株価の改善にもっと重きをおいて取り組むべきという。
そうすることで、経営者の規律が高まるという趣旨だろう。
ここまではすっと入ってくるところだが、「アベノミクスの足を引っ張っているのは『経営者』」といった話になると、ついていけなくなる。

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