【書評】日本経済再生 25年の計

池尾和人 慶應大学教授、幸田博人 みずほ証券副社長らによる経済再生のための提言の本。
「金融・資本市場の新見取り図」との副題がついている。

テーマは金融・財政政策など政策決定者側の視点のものから、企業統治・イノベーションなど民間企業側の視点のものまで幅広い。
よくも悪くもオーソドックスなアプローチで書かれている。

ここでは座談会の中から小林慶一郎 慶應大学教授の発言を紹介しよう。
小林教授は、財政悪化の問題点が国の破綻リスクを高めることだけではないと指摘する。

「国家の債務が膨れ上がっていて財政再建の見通しが立たなくなることで現在の経済活動が停滞している。
現在の経済成長がミクロな努力にもかかわらずうまくいかなくなっている。」

つまり、民間がいくら努力をしても、国家がその足を引っ張っている可能性があると指摘しているのだ。
では、財政悪化がどう経済の足を引っ張っているのか、教授のイメージを知っておこう。

消費税を上げることは、いまは経済成長とトレードオフのように考えられているわけですが、実は消費税を上げたり社会保障費を削減したりすることにより財政の見通しがよくなることによって、現在の成長も上がるのではないかというプラスサムの思考ができると思います。

懲りないケインジアン

玉石混淆のケインジアンたちは、増税を先延ばししたり、財政支出を増やしたりすることで経済が改善すると考えている。
バブル崩壊後の日本はそれを実践し、先進国屈指の借金漬け体質を築いてきた。
ケインジアンの中には《それでも日本は破綻していないし、今後もしない》と胸を張る人さえ少なくない。
では、この20年で日本経済は目覚ましく改善したと言えるのだろうか。
胸に手をあてて考えてみる必要がある。

バブル崩壊時に170兆円前後だった普通国債残高は今年度末には865兆円に達する見込みだ。
一方で、今年度予算におけるプライマリー・バランスは10.8兆円のマイナスであり、日本の財政に均衡点が訪れる気配はない。
国債残高は865兆円からさらに増えていくだろう。
865兆円は国民1人あたりで言うと688万円。
すべてを返済する必要こそないとは言え、気の遠くなる数字である。
政府が仮に国債を半分に減らして持続可能な財政を確立したいと願っても、追加的に国民1人あたり344万円も負担しなければいけないのだ。

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