【書評】錬金術の終わり-貨幣、銀行、世界経済の未来
財政問題の本音と建前
キング氏は、各国で積み上がる政府債務についても率直に語っている。
「ギリシャが進むべき道は、債務のかなりの部分について債務不履行を宣言し・・・
それはずっと前からわかっていた。」
ギリシャが自力では財政再建できないであろうことは、日本の普通の人々でも確信している人が多いはず。
払えないものは払えないことを人々はよく理解している。
それなのに、国際社会の建前はまったく異なるところにある。
誰をなぜ助けたいのかには定見がないが、とにかく本音とは異なる建前にしたがい弥縫策が重ねられている。
しかし、この点について日本人は笑えない。
2012年に安倍首相が経済成長を刺激するために金融緩和、財政出動、構造改革の『3本の矢』を放った。
残念ながら、的に当たったのは1本目の矢、つまり金融緩和だけだったようだ。
日本はいま、巨額の貨幣を創造して、国債の買い入れを増やしている。
抜本的な構造改革は実現しておらず、膨張する国家債務の負担を減らすにはインフレを起こすしかない状況にある。
前半も耳が痛いが、後半もなかなか厳しい。
キング氏は、ギリシャの解決策をデフォルトと書いている。
ギリシャの債務の多くが海外投資家からのものだからだろう。
一方、日本の解決策はデフォルトではない。
デフォルトしても、損を被るのは国内の経済主体であり、いたずらに経済を混乱させるだけとの考えだろう。
そこでの解決策はインフレだ。
時間をかけてインフレを進め、国を含む債務者の負担を減らし、経済的損失を薄く円の保有者に転嫁すべきと言っているのである。
こうした本音が政府・日銀から語られることはない。
政府・日銀がそう考えていないからなのか、それとも単なる本音と建前の差にすぎないのか。
真実いかんでは2%の消費増税など議論するのもバカらしい話になってしまう。