【Wonkish】均衡金利の前にあった見えない壁
伝統的金融政策、つまり短期の政策金利誘導の限界とはなんだろう。
少し前まではゼロ金利だと考える人が多かったのだろうが、今では多くの中央銀行がマイナス金利政策を採用している。
では、マイナス金利の限界はどこにあるかと言えば、タンス預金との競合が一つ考えられる。
中央銀行が政策金利をマイナスにすると、市中銀行がマイナス金利を嫌って現金を中央銀行に預けず倉庫に保管するようになるという話だ。
ちなみに元日銀副総裁の岩田一政氏は、金庫での保管コストとの比較上-2%程度まではマイナス金利を拡大できると語っている。
さらに、タンス預金の壁を遠ざける方法もある。
一つは高額紙幣の廃止だ。
高額紙幣を廃止すれば、金庫で現金を保管する際の金額あたり保管コストは上昇する。
ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は、タンス預金の壁を遠ざけることができる点を高額紙幣廃止のメリットの一つに挙げている。
さらに、タンス預金をほとんど一掃できる方法もある。
早稲田大学の岩村充教授はデジタル銀行券の導入によって、デジタル銀行券そのものへマイナス金利を付することができるようになると指摘している。
こうなると、金融調節とは市中銀行を介したものではなくなり、直接的に円の保有者に働きかけるものになる。
これら議論は正当なものだが、もう一つの現実を考えると、利下げの限界とはもっと手前にあるかもしれない。
それが、プリンストン大学のMarkus K. Brunnermeier教授が提唱するリバーサル・レート(Reversal Interest Rate)だ。
これは「金融緩和政策がその効果を『反転』し、貸出に対し縮小の影響を及ぼす金利」と定義されている。
ゼロ金利やマイナスの政策金利との上下関係はわからないが、信用創造を促さなくなる金利がどこかにあるとの考えによるものだ。
米国でもかなり前から金融緩和は行きすぎとの指摘が多くあり、その多くが信用創造を阻害する点を論拠に挙げていた。
そうした主張を金利水準で表した概念がリバーサル・レートと言える。
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