【書評】不道徳な見えざる手
無力ゆえに見ないふりをする経済学
本書では経済・社会のあらゆるところに存在するカモ釣りを議論している。
なぜ物語の羅列に明け暮れたのか。
著者の思いはこうだ。
「私たちは – 教科書の中や、ほとんどあらゆる経済学者の標準的な心構えのように – 市場の健全な(つまり「効率的」な)働きだけを描くのはまちがっており、経済的病理学は、単に外部性や所得分配のせいだけであるかのように描くのはよくないと考えている。」
現実には市場は常には効率的ではないし、人は常には合理的でもない。
その影響は決して小さなものではない。
それなのに、経済学者はそれに立ち向かう能力に欠けているがゆえに、自身の経済モデルの外に存在する現象と定義したがる。
秩序と無秩序が混在する系において、自身が得意とする秩序だけを議論し、無秩序については別の話と棚上げしてしまう。
こうした秩序だっていない部分まで拾おうとするのが行動経済学であろう。
アカロフもシラーもこの分野に分類される経済学者だ。
アカロフは2001年、シラーは2013年にノーベル経済学賞を受賞している。
そして、前著『アニマル・スピリット』においてこの2人にタッグを結成させた人こそ、2017年の受賞者リチャード・セイラーなのである。