【書評】日銀と政治-暗闘の20年史
リフレ派は正統から転げ落ちた
かつての正統派は他の先進国では異端であった。
リフレ派は先進国では正統派であった。
しかし、その位置づけも近年揺らいでいる。
ラグラム・ラジャン元RBI総裁は最近こう書いている。
日銀は15年近くもインフレを押し上げようとしてきた。
この期間、世界中の多くの中央銀行家は日銀高官にアドバイスしたがった。
『簡単なことさ。こうやればいいんだよ。』
しかし、同じ中央銀行家たちが自ら低インフレに直面する段になって、問題はそう単純でないと気づいたのである。
かつて日銀の苦戦を嗤っていた欧米が同じ問題に苦しんでいる。
リフレ政策をとれば日本の問題は解決すると言っていた彼らが、自国でその解決策を講じる段になると十分な結果を出せていない。
インフレに関する限り日本よりはるかに有利な環境にあるはずの欧米が、2%物価目標の達成の前に量的緩和を巻き戻そうとしている。
先進国における正統派はもはやリフレ派とは言えなくなっている。
大幅な資産価格・物価の下落はもちろん望ましくないが、2%の物価目標達成が幸福への唯一の切符ではないと考える人が増えている。
リフレ派に打つ手は残っているのか
日銀は「総括的な検証」によって「量」の目標を後退させた。
つまり、量的緩和によるリフレという方法には白旗を挙げたといってよい。
現在は「金利」と「質」の軸を使い金融緩和に務めている。
白川総裁以前よりはるかに大胆な金融緩和ではあるが、2年前と比べるとコンセプトにおいては白川総裁以前に回帰したともとれる。
マイナス金利は伝統的な利下げの延長線上にあるものと言えるし、多様な資産クラスの買入れも特に危機対応等で日銀がやってきたことと言えなくもない。
量によるリフレはうまくいかなかったのだろう。
異次元緩和の効果とは、量による効果というよりは、長期国債を買い入れることによる長期金利押し下げの効果にあったのだろう。
だからこそ今、長期金利ターゲットが続けられている。
異次元緩和が功を奏したというなら、いずれ「金利」や「質」の軸も巻き戻す時が来る。
その時にかつての正統派の化石さえも残っていないなら、日本人は多くの遺産を無にしたことにならないだろうか。