【輪郭】今は何年?
経済や市場の先行きを理屈だけから予想しようとすれば、かなりの確率で失敗する。
経済・市場の仕組みは複雑で、人間が同時に頭に思い浮かべられる数の連立方程式ではとうてい測れない。
将来を予想するなら何といっても温故知新に限る。
現状と似た時代を探し、どういう関係式が最も効いているのかを抽出することで、予想をシンプルにし確度を高めることができるかもしれない。
本稿では、トランプ政権が過去のどの政権と似ているのかを考えてみたい。
近い過去で見るならば、共和党という観点からレーガン政権、ブッシュ(子)政権ということになろう。
減税、財政悪化、国際的緊張など似た点は少なくない。
しかし、トランプ大統領の特異性はやはりずば抜けている。
レーガン、ブッシュ(子)大統領の時代を知っている人からすれば、とても似ているとは思えない。
いずれの大統領も立派な政治家であり、明らかに違う。
現大統領の特異性とは、思考・行動が原始的ということではないか。
そうだとすれば、相当な昔に類似の時代を求めるべきだ。
その意味で、2人の識者の意見が役立つ。
プロ・ビジネスだったクーリッジ
ロバート・シラー教授はトランプ当選後、トランプ政権がカルビン・クーリッジ政権(1923-29年)の再来になることを心配していた。
大恐慌直前のプロ・ビジネスの政権である。
同政権下で米経済は著しい成長を遂げ、米株式市場は一本調子で上昇し、「狂騒の20年代」と呼ばれた。
シラー教授が似ていると言ったのは、プロ・ビジネスのナラティブ(物語)の部分だろう。
規制緩和や減税という共和党らしい政策でトランプ政権と共通点が見られる。
一方で、クーリッジ大統領は財政支出削減に積極的だった。
また、移民政策についてオープンな考えを持っており、議会が成立させた排日移民法について批判的な立場をとったとされる。
結果論で言えば、少なくとも任期中、米経済は拡大を続けた。
この時代、財政健全化・閉鎖的移民政策は経済拡大の妨げとならなかったようだ。
現在、財政にスペースは小さく、人口動態的にもマイナス要因が大きいことを考えると、トランポノミクスの効果が短期で終わるのではないかと心配されよう。
大恐慌後の金融緩和
もう一つ参考になるのが、レイ・ダリオ氏が言っていた1937年との類似だろう。
これは、大恐慌(1929年と2008年)の後に量的緩和(金本位制停止とQE)が起こり、それが最終局面を迎えつつあるというストーリーだった。
危機と金融緩和という並びに説得力があったが、最近の展開を見ると必ずしも当たりとは言えなかったのかもしれない。
なによりダリオ氏自身が、最近1937年と言わなくなった。
ダリオ氏は最近、現在が景気サイクルの最終局面と言っている。
この1つの候補が1937年であり、その直前で探すなら1929年ということになる。
1929年説ならそれはシラー教授の言うクーリッジ政権の再来ということになる。
ここでさらにトランプ政権の2つの特徴を思い出そう。
- トランプ政権の歳出拡大はフランクリン・ルーズベルト大統領による1930年代前半のニューディール政策を連想させる。
- トランプ政権の保護主義的スタンスはハーバート・フーヴァー政権下の保護主義(スムート・ホーリー法)を連想させる。
いずれも1929年以降の話である。
この2点との距離感を考えると、今は1937年より少し前なのかもしれないと思えてくる。
ただし、これが当たるには米金融緩和が継続することが条件になる。
経済・市場にほどよい不安がやってきて、FRBが金融緩和に逆戻りし、ECB・日銀が追加緩和を模索するという展開だ。
このシナリオは為替相場の面で現状とよく擦り合っている。
ECB・日銀はまだ正常化からは程遠く、追加緩和をしようにも余地はそう大きく残されていない。
それに対してFRBはそこそこ利上げもしてきているから、金融緩和の余地が存在する。
足元では年3回の利上げが織り込まれているところに金融緩和回帰となれば、米金利は下げのサプライズに見舞われる。
日欧の金利があまり動かない分、金利差は縮小のサプライズを迎えることになる。
これを先回りするとするなら、ドル安・ユーロ高・円高であり、この方向性は足元の動きとよくすり合っている。
山田 泰史
横浜銀行、クレディスイスファーストボストン、みずほ証券、投資ファンド、電機メーカーを経て浜町SCI調査部所属。東京大学理学部化学科卒、同大学院理学系研究科修了 理学修士、ミシガン大学修士課程修了 MBA、公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。
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