【メモ】1万円紙幣廃止の可能性
3日の衆議院財政金融委員会で、不正防止・タンス預金の減少等などを目的とする1万円紙幣廃止の可能性についての質問があった。
以下、日銀の宮野谷篤理事の答弁。
最近の諸外国の事例
欧州: ECBが非合法活動助長の懸念から今年末をめどに500ユーロ紙幣(約66千円)の製造・発行を停止予定。
シンガポール: 2014年10月以降、1万シンガポールドル紙幣(約800千円)の発行を停止。
宮野谷氏は一般論として
「各券種の現金流通システムにおける役割や流通量、あるいは現金の決済手段としての普及度合い等、国によって異なる様々な事情を踏まえて現実的に考慮していくことが重要だと考えている。」
と述べ、ユーロとの違いを数字で示した。
紙幣 | 金額 | 枚数 |
1万円紙幣 | 93% | 60% |
500ユーロ紙幣 | 20% | 2% |
宮野谷氏は、1万円紙幣が日本の現金流通システムにおいて重要な役割を果たしており、金額の大きさもさほど大きくないと指摘。
日本での高額紙幣廃止の議論について現時点では慎重に考えるべきと話した。
高額紙幣廃止論の背景
高額紙幣廃止については、ケネス・ロゴフ教授やローレンス・サマーズ元財務長官が不正防止の観点から主張している。
ロゴフ氏は自著『現金の呪い』の中で、犯罪や脱税に利用されやすい高額紙幣の廃止を唱えた。
教授は、日本こそ真っ先に高額紙幣廃止を考えるべき国だとしたほか、1万円紙幣廃止は金融政策のスペースを拡げるとも指摘している。
サマーズ氏は、500ユーロ紙幣廃止に関連し高額紙幣廃止の国際的合意が望ましいとコメントしている。
高額紙幣廃止論の主たる根拠は不正に利用されるのを防止したいということだ。
記憶に新しいインドによる紙幣切り替えでもそれが主たる目的であった。
しかし、先進国の話になると、根拠はやや混濁してくる。
ロゴフ教授の発言に表れているようにマイナス金融政策との関連が持ち上がって来る。
マイナス金利の限界を外す
具体的に言えば、現金で流通しているマネーにもマイナスの金利を課すために、タンス預金を駆逐し、将来的には現金を電子化しようというのである。
次の景気後退期、中央銀行が大幅な追加緩和の必要に迫られた時、残された手段は少ない。
量的緩和はある程度効果があったが、全体としてはバーナンキ元議長が言ったように理屈通り効果が十分でなかった。
それに、次の景気後退期までに巻き戻しがどれだけ進むかもわからない状況だ。
マイナス金利も選択肢に入れざるをえないが、マイナス金利には現金保有という抜け道がある。
マイナス金利を深くして、大きなマイナス金利が銀行・預金者に課されるようになれば、銀行も預金者も現金保有で対応するだろう。
高額紙幣の廃止・現金の電子化は、そうした対策を抑え込む効果があるのだ。
幸い現在、世界経済は好調だ。
人々の関心はむしろ金融政策正常化に向き、マイナス金利の深掘りなど眼中にない。
しかし、中央銀行が再び金融緩和を実施するような時が来れば、こうしたテーマも蒸し返してくるかもしれない。
そう思うと、宮野谷理事の「現時点では」という言葉が不気味に腑に落ちてくるのである。