時価を語れない経済学
損失予想額の合計こそが「評価損」であり《時価》
先述の学者ご本人は気づいていないのかもしれないが、実は、彼の試算にはより本質的な意味合いが含まれている。
日銀が正常化を決断した時点における、推計損失額の将来価値合計額こそ、彼が「無意味」といった「評価損」に他ならないのである。
そして、この評価損は市場から狙われる。
市場参加者は学者とは異なり、不十分な情報の中でも大きな金銭的決断を下す必要に迫られている。
そのため、常により合理的な参考値を探すものなのである。
円の絶対的価値を日銀のバランスシートが正確に示しているとは思わないが、重要な参考値だ。
(それに異論があるなら、より重要な参考値をもって、市場参加者を説得してみればいい。)
バランスシート悪化が突如訪れれば、それは売りの合図になりかねない。
将来の損失を市場に織り込め
この市場の営みが示唆することは何か。
日銀が出口における損失額推計を提示すべき理由は、政治家や役人の責任問題のためだけではないということだ。
将来の損失を今提示し、それを継続的に市場に織り込んでおくことによって、実際の出口におけるインパクトを中和する効果が期待できる。
これまでさんざんメリットを先食いしてきたのだから、そろそろ出口のデメリットも先食いしておいていい。
しかも、これに関する限り、出口のデメリットはリフレ的かもしれないのだ。
幸い日本政府にはすでに1,000兆円という途方もない債務がある。
あと数十兆円増えたところで誤差の範囲かもしれない。
しかも、その数十兆円の一部分はすでに市場に織り込まれているはずだ。
金融緩和をだらだら続けるという話は、投資家の立場で言えば、当座は心地いいのかもしれない。
しかし、国家にとっての善し悪しで言えば、やはり無理がある。
仮に、日本が円高でなく、円安を恐れるような時代がくれば、これはもはや《いつか来た道》とは言えなくなってしまう。
山田 泰史
横浜銀行、クレディスイスファーストボストン、みずほ証券、投資ファンド、電機メーカーを経て浜町SCI調査部所属。東京大学理学部化学科卒、同大学院理学系研究科修了 理学修士、ミシガン大学修士課程修了 MBA、公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。
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