【書評】Big Debt Crises
Bridgewater AssociatesのRay Dalio氏が上梓した景気と市場の循環についての教本。
想像していた以上にすごい本だ。
219ページと米国の本にしてはコンパクトな分量だが、内容はとても濃い。
まず65ページをかけて景気と市場の循環のしくみを解説する。
残りのページは多くの事例研究にあてられている。
日本だろうが、米国だろうが、景気や市場のサイクルのある時期に何が起こったかを知るのは意外と難しい。
知らない時代については、サイクルの各局面で何が起こったかを詳しく教えてくれる書物はそうそう多くない。
知っている時代については、私たちは思い込みを抱きがちだ。
この本は(もちろんすべての視点を網羅しているわけではないが)明確な基準をもって景気循環・市場循環を描写している。
その基準とは信用創造(ストックで言えば債務)が循環を生むというダイナミクスである。
ダリオ氏が『大債務危機』と題する本書を今上梓した理由は冒頭のQ&Aの1つに表れている:
債務危機は回避できないのか?
歴史を通して、ほんのわずかの規律ある国のみが債務危機を回避してきた。
(景気)サイクルがバブルとその崩壊を生む人々の心理に働きかけるために、貸出は決して完ぺきな形で行われることがなく、しばしば悪い形で行われるためだ。
政策決定者は概して正しいことを行おうとするものの、たいていは信用を緩めすぎる方に間違える。
短期的な報酬(経済成長の加速)がそれを正当化するように思えるからだ。
政治的にも信用の緩和(保証供与、金融緩和政策など)は引き締めより受け入れられやすい。
これが、債務サイクルを大きくしてしまう。
ダリオ氏は、高い確率で債務危機がいつかやってくると考えている。
そして、今が繊細な時期にあたると考えているのであろう。
繊細な時期とは多くは転換点であろうし、過去の景気拡大・強気相場を考えれば、ピークが近い可能性を見ているのだろう。
「The Top」(ピーク)と書かれた局面についてダリオ氏はこう書いている。
「ピークはさまざまなイベントで引き起こされるが、もっとも多いのは中央銀行が引き締めを始め、金利が上昇する場合だ。
ある場合には、引き締めはバブルそのものによって引き起こされる。
供給制約が問題になる中で経済成長とインフレが高まるためである。」
これは今まさに米国で心配されているシナリオだろう。
時期外れの大規模財政刺激策が経済を吹かし、インフレを高め、FRBに引き締めを強いている。
本書はその裏番組(新興国市場)についてもカバーしている。
「例えば、外国の債権者からの借入に依存するようになった国では、外的要因による貸出の巻き戻しは流動性のタイト化につながる。
債務の建値となっている通貨の国の金融引き締めは、外国資本の巻き戻しの原因になる。
これは、国内経済の状況に無関係に起こりうる。
また、債務の通貨が所得の通貨より強くなれば、特に厳しいスクイーズを引き起こしうる。」