【First Read】日銀の脚注を読む

本日の日本銀行の金融政策決定会合のリリース文を読んでおこう。
目新しい変化ではないのだが、恒例となりつつある反対意見についての脚注だ。

原田委員は、長期金利が上下にある程度変動しうるものとすることは、政策委員会の決定すべき金融市場調節方針として曖昧すぎるとして反対した。
片岡委員は、先行きの経済・物価情勢に対する不確実性が強まる中、10年以上の幅広い国債金利を一段と引き下げるよう、金融緩和を強化することが望ましいとして反対した。

イールドカーブ・コントロールを従前のまま維持することに対する両委員の反対意見の理由である。
いずれもハト派の論客であり、ある意味きちんと筋を通しているのだ。

原田氏の意見は、日銀が自身の行動を明確に律して行動すべきとの考えだろう。
日銀がある程度の幅を持って金融政策を実施する方がうまくいくとの考えもあろうが、原田氏の意見の趣旨も理解できる。
厳格に目標・手段を設定することで、目標と手段の間の論理矛盾が理解しやすくなる可能性もあろう。
原田氏は、この他に「物価目標との関係が明確となるフォワードガイダンス」導入を求めている。
確かにフォワード・ガイダンスを入れれば、市場の期待をアンカーしやすくなるかもしれない。

片岡氏の意見も実に論理的で明解だ。
今月、日銀は再び物価の見通しを下方修正している。
日銀が物価目標を掲げ、実績が下方修正されるなら、追加緩和を行うべきというのは(副作用を勘案しないなら)まったくの筋論だ。

この2つの意見が反対意見の側にあるのはなぜか。
1つの解釈は、長い金融緩和が金融システムを相当に疲弊させているとの見立てであろう。
あるいは、両氏の意見を採用すれば循環増幅型の金融政策になってしまうのも心配なところだ。
(日本も米財政刺激策を嗤えなくなってしまう。)
これらは一面の真実であろうが、主因ではあるまい。
これだけなら、物価と金融政策の関係を明示してもいいはずだが、そうはなっていない。
日銀は、金融政策をルール化したくないのだ。

つまり、物価目標と金融緩和の間の関係はほぼ切断されたと言ってよい。
唯一のつながりは、物価目標が未達である限り、それを理由に金融緩和を継続できるという点だ。
逆に物価目標が未達でも、金融政策を正常化する可能性は十分にあるのではないか。
だから、日銀は金融政策をルール化したくないのだ。

では、現在の曖昧なルールはいつ破られるのか。
おそらく政権が黒田日銀の戦いにタオルを投げたときだろう。
政府・日銀のアコードは、政府・日銀のアコードで終わるわけだ。
首相は在任中の正常化に意欲を示しているから、近い将来その時がやってくる可能性がある。
あるいは、次の政権まで引き継がれる可能性もあるが、それまでにはヒヤッとさせるようなショックが走ることもあるのではないか。

市場が金融政策正常化を明確に意識した時、まずショックが走るのは長期金利とETFだろう。
特に日本株は日銀が制御しきれる市場ではない。
要は円債・日本株は中期的には要注意ということだ。