【書評】中央銀行: セントラルバンカーの経験した39年
白川方明 前日本銀行総裁が著した回顧録。
金融・経済にかかわる幅広いテーマが知的に論じられており、まるで宝石箱のように楽しめる。
金融政策は本質的には『時間を買う政策』である・・・
時間を買っている間に、社会として取り組むべきことに確実に取り組むことが不可欠である。
こうした白川前総裁(現 青山学院大学教授)の信念が750ページ余りにわたって書かれている。
かつて《金融政策がすべてを解決する》などと豪語した傲慢なリフレ派に対する反論であろう。
(もちろん、リフレ派の中にも傲慢でない人もいた。)
文字の詰まった分厚い本ではあるが、思いのほか読みやすいことに驚かされる。
ただし、この本は宝石箱だ。
各ページに主たるストーリー・ラインのほかにも多くの経済学的ウィットがちりばめられている。
それを丁寧に楽しむなら、相当な時間楽しめるはずだ。
『中央銀行: セントラルバンカーの経験した39年(アマゾン)』
読む前は、750ページもある本をサイトの読者に推薦することはなかろうと考えていた。
しかし、読んだ後は、紹介して間違いないと考えるようになった。
全体を読まずとも、たった1章読むだけでも良質の新書1冊分以上の充実感を得られるはずだ。
「逡巡の理由はいくつかあったが、最も気になったのは、自己弁護とか他人への批判と誤解されることであった。」
白川教授は、総裁退任から5年という長い年月の後に上梓した理由を書いている。
読者は安心していい。
自己弁護や他人の批判はないが、教授の見解・信念は十二分に表現されている。
バブルの教訓
この本の楽しみ方として提案したいのは、白川教授が長いエコノミスト人生で経験した経済現象に対する反省・教訓を書いているところだ。
1980年代終わりからのバブル経済の教訓を教授は3つ挙げている。
- バブルは発生しうるし、発生してしまうと経済的な代償が非常に大きい。
- バブルは中央銀行だけで防止できるわけではないが、それでも中央銀行は防止の努力をすべき。
- 金融政策の運営において政策思想の役割は大きく、一度レジームを受け入れるとそれを変更することは極めて難しい。
白川教授は「金融緩和だけでバブルが発生したとは思わないが、長期にわたる金融政策なしにはあれほどのバブルは発生しなかっただろう」と回想している。
現在の日銀がお手本にしてきた米FRBは、イエレン前議長の時代まで、バブルの防止をFRBの優先課題とは考えてこなかった節がある。
一方、パウエル現議長はその点を課題と考え、それが最近までのタカ派的な政策運営につながった面がある。
バブルの責任の一端が中央銀行にあり、中央銀行はバブル発生を予防する責務を負っているとの主張は、今まさに各国中央銀行が頭を悩ますべき課題だろう。
(次ページ: 主流派経済学の欠陥)