【データ】マイナス利回りの債券が買われるワケ

欧州では独国債をはじめ、債券利回りが大きく低下している。
イタリアの10年債利回りが1%を切るなど、以前は想像もできなかったことが起こっている。

いやいやイタリアを嗤ってはいけない。
結果論で言うなら、日本の財政運営の方が悲惨な状況にあるのかもしれない。
その悲惨な日本においても長期金利は日銀がほのめかしたレンジを下回り始めている。
そこで素朴な疑問が生じる。
短期側の政策金利が-0.1%なのに、どうして長期側がそれより下がってしまうのか。
言い換えれば、銀行が日銀にお金を預ければ、付利はゼロまたは-0.1%だ。
なのに、長期金利がそれより低い位置にある。
長期国債を買っている投資家は、いったい何のために長期国債を買っているのか。

日本の30年債第1回債の状況を見てみよう。
この国債は平成11年9月に発行され、償還が令和11年9月。
つまり、ちょうど残存が10年になっている。
クーポンは2.8%で、発行時の最低落札価格は99.20円とわずかにアンダーパー。
最高利回りは2.840%と公表されている。

日本証券業協会公表の9月4日の平均値によれば、価格が131.22円と大きくオーバーパー。
複利利回りは-0.264%と大きく水面下に沈んでいる。
償還まで持てば、元本部分の減価は31.22円だ。
もちろん、あと10年保有すればクーポンが受け取れるが、2.8×10=合計28円に過ぎない。
つまり、償還まで持てば会計上3.22円損をする。
国債が確実に償還されると仮定しても、わざわざ損失を確定するための債券投資になっている。

発行時にこの国債を買った投資家はホクホクだろう。
想定したインカム・ゲインだけでなく、大きなキャピタル・ゲインを手に入れたのだ。
もっとも、この含み益を実現してしまえば、次には苦悩が待っている。
同じ残存期間の国債を買いなおせば、今後はマイナス利回りとなるからだ。
金融機関の悩みの種である。

マイナス利回りの債券を買うインセンティブとは何であろうか。
これを考えるには時間と分野という2つの軸を意識する必要があるだろう。
イールド・カーブが平坦でロール・ダウンのうまみが小さい点を勘案するとこうなる。

  • 時間: 償還される10年後までに利回りがさらに低下すると予想し、キャピタル・ゲインを狙っている。
    ただし、これはババ抜きのような話であり、自ずと限界がある。
    プレーヤー全体で見て期待リターンがマイナスとなるなら、インセンティブを説明できているか疑問。
  • 分野: 国債以外の投資対象が下落すると市場が予想しており、それよりは損しても債券の方がましと考える投資家が多い。
    デフレだから国債を買う》という戦略だ。

前者だけでは説明が難しいなら、やはり後者の影響を大きく見ざるを得ない。
そこで、もう一度疑問がよみがえる。
なんで日銀準備預金への付利である-0.1%より長期金利が下げているのか。
今のままならば、銀行は保管料タダまたは0.1%で日銀に現金をしまっておけるのに。

答は簡単だ。
日銀が10年のホライズンの間にマイナス金利の深堀を行うと市場は読んでいるのだ。
金融のワンダーランドはまだまだ続くと市場は受け入れているのだろう。
もっとも、それが必ず実現すると保証されたわけではないことには注意が必要だ。