【解題】イナゴ大発生の後に残るもの
このところ胸を打たれるような記事がFPで見られた。
見過ごすべきない記事をいくつかピックアップして紹介しよう。
2019/08/21 金はアップ、アップ、そしてアップ:マーク・モビアス
タイトルの面白さが受けた一本。
この数か月は、金を除いてほとんど投資できるものはないとの悲観論が多かった。
金利低下は1つの理由だろうが、もう1つ重要な理由があるのだろう。
ブラックロックは物価連動債をポートフォリオに組み込むよう奨めている。
つまり、インフレを警戒するようになりつつあるのだ。
2019/08/23 通貨安誘導、近隣窮乏化政策、通貨戦争:ギータ・ゴピナート
かつて金融緩和とは信用創造を促し景気を刺激するというのが建前だった。
しかし、今では自国通貨安を誘導し支出切り替えを狙う近隣窮乏化政策になりつつあるとIMFが警告している。
IMFは、通貨安による支出切替効果は概して小さいと指摘している。
通貨安で儲かった人が多いとすれば、陰に損を被った人も多いということになる。
2019/08/28 多極化した世界には合成基軸通貨が必要:カーニーBOE総裁
カナダの中央銀行総裁を務めた後BOEで総裁を務めるマーク・カーニー総裁が、ドル以外の合成基軸通貨の必要性を唱えている。
人民元など他の国の通貨が基軸通貨となるにはまだ長い時間が必要だ。
だから、既存の通貨を合成して得られる合成基軸通貨を提供すべきとの意見だ。
各国のドル離れを象徴するとともに、先の話としてドルの退位を予想させる話だった。
2019/09/09 相対価格の議論が意味を失いつつある:モハメド・エラリアン
資産クラス間、とりわけ株式と債券の間の相関が高まってしまう場合、投資家はどうすればいいのか。
分散投資していたはずが、何の役にも立たなかったということになりかねない。
アラン・グリーンスパン元FRB議長は債券こそバブルと話した。
その債券の利回りこそが、他のリスク資産の理論価値を計算する際の重要なインプットなのだ。
債券がバブルとなり、リスク資産がそれになじんでしまえば、すべてのリスク資産は見えないバブルに陥ってしまう。
2019/09/12 やったもの勝ちの不条理な世界:ハロルド・ジェームズ
民主主義政治が愚民政治になった状況が悲哀を込めて書かれている。
この状況は当分続くのだろう。
政治ブームや金融バブルといったものは、イナゴの大発生と似たところがある。
発生すると、エサとなりうるものを食い尽くすまで食い荒らす。
すべて食い尽くしてしまうと、ほとんどが餓死する。
そうなるまで、食い尽くすのが是または正義とされがちだ。
2019/09/17 ナラティブ経済学とは何か:ロバート・シラー
シラー教授が新著『Narrative Economics』のPRのためメディア等への露出を拡大している。
その活発さには目を見張るものがある。
前著『不道徳な見えざる手』と比べても露出の度合いが段違いに大きい。
前著のテーマは、世にはびこる騙しの話だった。
騙しが過度なリスク・テイクを生み出しうるという話は、資産価格上昇の中でタイムリーな話題だった。
今回は明らかに学問的なタイトルとなっている。
数を狙うようなテーマとも思えないのに、この意気込みは何なのか。
本気で1つの学問分野を切り開こうとしているのではないか。
2019/09/19 FRBが迫られる二者択一:グッゲンハイム
この記事自体はFRBの金融政策を論じたものとしてたいして面白いものではない。
しかし、スコット・マイナード氏の一言が耳に残った。
FRBが迫られている選択だ。
「流動性を供給しバランスシートを拡大するか、Noと言うかの選択」
中央銀行は可能な限りどこまでも景気拡大を支え継続させるべきなのか。
それとも、どこかでNoと言い、景気後退を甘受すべきなのか。
もちろん何のコストもないなら答は前者に決まっている。
では、前者のコストとは何か。
前者の主なコストは資産価格上昇による金融の不安定化リスクと政策手段の枯渇だろう。
金融緩和は実体経済より資産価格により強く作用しがちだ。
ゼロ金利近傍ではなおさら強くなる。
これがバブルなどの過剰を生み出し、その反動を生み出すことは、前2回の米景気後退で経験したとおりだ。
また、刺激策が金融政策であれ財政政策であれ、多くを発動すればするほど、ついに景気後退がやってきたときの政策手段は少なくなる。
中央銀行が今利下げをすれば、その分、景気後退期に利下げできる幅は小さくなる。
乱暴なようだが、早めにガス抜きをしておくという考えがあってもいいのだが、そうはならない。
ハワード・マークス氏は、これを意思の問題と言っていた。
「景気を永遠に拡大させるのがFRBの仕事だとは私は思わない。」
2019/09/19 債券王ジェフリー・ガンドラックの驚愕の推奨:次の不況はドル安に
私が一番ショックだったのはこの記事だ。
ガンドラック氏がドル安を予想するのは今始まったことではない。
単なるドル安であればレイ・ダリオ氏も予想しているし、その時点でダリオ氏もガンドラック氏も金を推奨していた。
ガンドラック氏のドル安予想の背景には景気の鈍化にともなうFRB利下げ予想も効いていたのではないか。
しかし、今回のドル安予想は本格的な景気後退期におけるドル安予想なのだ。
多くの投資家が景気後退期にイメージするのはドル高と円高だろう。
(タイミングにより変わるだろうが、ドル円については円高ドル安を予想する人が多いのではないか。)
今回、ガンドラック氏は景気後退期にドル安が進むと予想し、6-8年という長いホライズンで米資産以外への配分変更を奨めている。
しかも、それは日本、ユーロ圏、新興国と続いた全盛と衰退の歴史に続くものと位置付けている。
日本化が世界経済の最後の砦にまで及びつつあるとさえ感じられるメッセージなのである。
ヘッジ・ファンドの帝王レイ・ダリオ氏と債券王ジェフリー・ガンドラック氏が似たような話をし出した。
これを投資家はどう受け止めるべきだろう。