【輪郭】日本固有の景気後退・弱気相場の可能性
新年1つ目にしては少々景気の悪い話題になるが、日本の経済・市場が独自に抱えるリスクについておさらいしておきたい。
先日のQ&Aでは、2020年が経済・市場にとって万全とは言えないまでも、悲観すべき状況ではないとのニュアンスだった。
上がる、場合によってはバブルのような勢いのある上昇となる可能性もある。
しかし、(経済はもっても)市場についてはピークアウトの確率も高まっていく、というものだ。
この議論はもっぱら、世界の経済・市場を牽引している米国の動向に目を向けたものだった。
しかし、世界各国の経済にはそれぞれの国や地域に固有の変動も存在する。
今年の日本には、米国や他の国々とは同期しない固有の変動要因があるのだろうか。
こういう疑問がはあって当たり前だ。
そして、答はもちろんYesである。
大きく2つ挙げると
・消費増税の影響
・オリンピック需要の終了
であろう。
消費増税については、このタイミングで財政緊縮を行ったことを批判する人が少なくない。
票やバラマキが好きな政治家や、応援団を形成するハト派エコノミストらである。
他国が財政刺激策を検討している中で、日本だけ増税を行うのはおかしい、というような趣旨である。
ただし、これを咎めだてするのは筋違いだろう。
このタイミングで増税することとなったのは、ひとえに増税を延期したためだ。
もっと景気の腰が強かった時期に増税すべきところを引き延ばしたがために最悪のタイミングになった、との論も当然ありうる。
消費増税が景気を冷やすのは間違いない。
景気がいい時にやろうが、悪い時にやろうが、消費増税は景気を冷やす。
それでも日本が増税したのは、景気を冷やすことを覚悟した上の決断であったと考えざるをえない。
世論調査の結果もそういう覚悟を反映しており、増税という不人気な政策に対して半分ほどの人々がやむを得ないと回答している。
消費増税に対する国民の比較的寛容な姿勢は、一部の政治家やエコノミストの言い訳に対する不信を表すものかもしれない。
それは《ここで景気を刺激し支えれば、日本は趨勢的停滞を脱して、中程度の経済成長の経済に復帰できる》という言い訳だ。
日本はバブル崩壊後、入れ替わり立ち代わり顔は変われども、今度は財政、今度は金融といった感じで刺激策をエスカレートさせてきた。
その都度《今回で解決する》というようなニュアンスで正当化が行われた。
結果、財政・金融政策ともにかなりマージンのないところまで追い詰められている。
人々が消費増税に対し驚くほど寛容なのに、しかも、国家財政が増税を必要とするほど追い詰められているのに、消費増税導入時には増税幅を上回るような対策が打たれ、さらに大規模な財政政策が講じられた。
災害対策の部分を別としても、少々異様な光景だった。
これを消費増税の悪影響を払拭するためと見るのは少々無理がある。
むしろ、このパッケージの本当の対象はオリンピック特需の反動にあったのではないかとさえ思えてくる。
今回のオリンピックでも、特需がはげ落ち始める時期を前年の2019年と見る人は少なくなかった。
公共インフラの整備、ホテル・商業施設の建設等、建設関連の需要がだんだんピークアウトしていくためだ。
日本の場合、これに消費増税が重なってしまった。
これこそ、日本固有のリスクであり、だからこそ政府は違和感があるほどの財政刺激策を打ったのだろう。
日本の経済・市場にとってみれば、こうした刺激策はやはり足元ではプラスに働く。
政府が支出すればGDPが増えるのは当然だし、そうなれば企業収益にもプラスだ。
ゼロ金利下で流動性が潤沢に供給されている以上、市場にもプラスだ。
だから、市場に対する日本固有の問題への解はこうなる。
《リスクはあるが、足元では大規模な財政刺激策でオフセットされている。》
特に足元の日本市場について諸外国より悲観するのはいきすぎかもしれない。
しかし、将来について展望すれば、答は逆になる。
刺激策とは、それが財政であれ金融であれ、大部分は将来からの需要の先食いだ。
永遠に財政・金融刺激策を拡大することはできないし、仮にそうすれば破滅が近づいてしまう。
先食いをやめた時に日本経済・市場は本来の姿を現す。
消費増税とオリンピック終了というマイナス要因をもろに受けた場合の姿だ。
具体的には、首都圏の不動産には要注意だ。
2020年にはインバウンドの特需も終わる。
ホテル等の商業施設の中には稼働率が下がり、業態・価格の変更を迫られるものが増えてくるだろう。
さらに、実際に景気後退が始まり、その時に仮にリスク・オフの円高がまたやってくるようなら、インバウンド産業がある程度の悪影響を受けるとも覚悟しておくべきだ。
結論:
2020年の日本経済・市場に固有なリスクはオフセットされていると思われるが、その負担は将来にしわ寄せされる。