【書評】戦前・戦時期の金融市場 1940年代化する国債・株式マーケット
『戦前・戦時期の金融市場 1940年代化する国債・株式マーケット』は、東京海上アセットマネジメントの平山賢一氏による、戦前・戦時中の各市場に関する研究結果。
日本において投資家が呆れることの1つは、信頼のおける長期的なデータが手に入らないことだろう。
たとえば、ロバート・シラー教授が米国株市場について語る時、教授は1971年まで遡及した株価指数を用いて議論する。
そのデータは教授のウェブサイトで公表されている。
だから、たとえば、レイ・ダリオ氏が現状を1930年代に似ていると発言した時、一般の投資家であっても当時の株式市場がどう振舞っていたか容易に知ることができる。
ちなみに、シラー教授のCAPEレシオ計算のスプレッド・シートには物価指数も含まれているから、とても便利だ。
ところが、日本となると事情は異なる。
たかが1980年代まで遡るのにも骨が折れたり、料金を取られたりする。
トータル・リターン指数ならなおさらだ。
たかだか40年の時系列で言えることは相当に少ない。
レイ・ダリオ氏が言及した1930年代終わりなど忘却の彼方といったところだ。
平山氏の『戦前・戦時期の金融市場』は、そういった課題への答の端緒となりうる研究だ。
戦前からのデータを収集し、国債・株式のパフォーマンス・インデックスを計算し、議論している。
国債と株式の両方をカバーすることから、大手機関投資家向けの内容というべきかもしれない。
しかし、この本には一般投資家にとっても必見の部分がある。
「補論-1940年代化する現代の国際・株式市場」である。
本書の副題と同義であり、本書の主要なバリュー・プロポジションをなす部分と言えるだろう。
2010年代の日本は、自由な金融市場を維持するのではなく、政府の介入により金融市場の変動を抑制するという点で、1940年代という歴史のリフレインが発生しているのではないかという仮説が浮かび上がってくるのは自然であろう。
2つの時期の大きな類似点は言うまでもなく政府債務の拡大と(意図してか否かは別として)それを支える金融抑圧である。
金利が(おそらく人為的に)インフレより抑え込まれた状況が長く続いている。
これが最後に何を引き起こすのかは、多くの投資家の最大の関心事だ。
1940年代のような高インフレ時代ではなく、物価安定期においても、実質金利がマイナスになりうる点は再認識すべきであろう。
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歴史は繰り返さないが、形を変えて似たようなリズムやパターンを描きながら、再び眼前に現れているのだ。
《歴史は繰り返さないが、韻を踏む》とはマーク・トウェインの言葉。
平山氏のパフォーマンス・インデックスは1940年代の国債・株式の投資リターンを教えてくれる。
どういったリターンだったかは、ネタバレとならないよう、みなさんの読書に任せよう。