ウォーレン・バフェットが長期投資で成功したワケ

先日ある目的があって、ある本を読み始めたのだが、これがとんでもない本だった。
その本とは『世界を支配するベイスの定理 – スパムメールの仕分けから人類の終焉までを予測する究極の方程式』という本だ。

本書はサイエンス・ライター ウィリアム・パウンドストーンによる終末論の本。
この本には興味深いことが2点ある。
1つは、邦題がほぼ全く内容を表していないこと。
本を売りたいがために少々無理な邦題を付けたのであろう。
このため筆者は数ページで読むのを断念した。
もう1つは、ともかく内容は面白い点。
本来は良書だったのに、日本側がそれを台無しにしてしまったということだろう。

(Amazonリンク)

さて、そんな問題作の中に投資家にとって極めて興味深い部分を見つけた。
著者は物理学と情報理論を専門とする人らしいが、そういう人が投資について書いた部分である。
オーソドックスな投資家とは異なる視点がクローズアップされていて新鮮だ。

近年、ビジネス界のキャッチフレーズとなっているのが「リンディ効果」(またの名をリンディの法則)である。
他よりも長い過去を持つ企業、市場、そして経営者には、より長い未来がある可能性が高いというものだ。

人間は年老いるにしたがって次の1年に死ぬ確率が高くなっていく。
しかし、企業は逆に次の1年に消滅する確率が低くなっていく。
いわば、長生きの会社はますます長生きするということ。

ここですでに興味深いのはリンディ効果だけではない。
著者の視点がゴーイングコンサーンを前提としていない点だ。
むしろ、企業の「終末」を想定した議論になっている。
ちなみに、アマゾンと同じ1994年設立の米企業の存続期間の中央値は約5年だという。
なるほど、ゴーイングコンサーンを想定すべきではないのだ。
このことは、程度の差こそあれ上場企業にも当てはまるのだろう。

著者はこれをDCFの式(株価は将来のキャッシュフローの現在価値の総和であるとする式)に当てはめて考える。
(厳密には配当割引モデルの話をしている。)
そして、企業が長生きすればするほど、DCFの総和が増えていくと主張する。
著者は清算価値を無視した計算をしているから、当たり前の話だ。

(ちなみに清算価値を考慮した場合、理論的には企業の寿命とDCFの結果には差がなくなる。
しかし、現実にはやはり長生きの方が大きくなる。
清算が起こるのは多くが経営の悪化等が起こる場合であり、それまでのキャッシュフローは悪化しがちだし、清算時の清算価値は経済的な価値を下回ることが多いためだ。
その意味で、定性的には著者の主張は正しいと言える。)

バフェットは古い会社を買う。・・・
バフェットのトップ10企業の存続年数の中央値は、一世紀をゆうに超える。
これと比較して、S&P 500のトップ10企業の存続年数の中央値は、わずか44年だ。

こうして、ウォーレン・バフェット氏の成功の一因が実証された。
しかし、話はこれで終わらない。
最近のバフェット氏の変化にかかわる無視できない現実が語られる。

DCFにより、コカコーラのように長期間存続している企業の評価は、最新のスタートアップやIPO(新規公開株)の評価の数倍にもなるはずだろう。
ところがそうではないのだ!
最高価値が付けられた会社はたいてい、現金を燃焼する新しい会社である。

これは近年ユニコーン企業において象徴的に起こったことだ。
彼らはキャッシュ・バーナーだが、とんでもない良い値段がついていた。
また、良い意味ではAppleやGoogleなどについても言える。
彼らは市場から高い評価も受けているが、同時に業績も素晴らしい。
バフェット氏がこうした企業を見直すのも当然なのだ。

著者の洞察はさらに市場の構造に向かう。

株式市場のパフォーマンスは主に、大当たりして成功を維持しているごく少数の株式に起因している・・・
平均的な株式はもっとパフォーマンスが悪い。

これも投資家にとってはもはや常識だ。
近年の米市場の上昇はGAFAなどごく一部の銘柄に牽引されたものだ。
このいびつな分布が、投資家にとって大きな意味を持つ。
仮に「平均的な株式」をつかんでしまうと、平均を下回るパフォーマンスに苦しむことになる。
この場合、インデックス・ファンドに投資しておけばよかったという話になってしまう。
株価指数は牽引する銘柄を間違いなく含んで計算されているからだ。

ところが、ほとんどの投資家は、ほぼ不可能なことをしようと試みる。
つまり、次なる大成功を事前に見極めるということだ。