バフェット氏の商社株投資は何リスクへの投資か?
最近リスクプレミアムの話題が目につき、先日FPでも関連の記事を載せた。
草稿を読んだ時、少し前のニュースが思い浮かんだ。
思い出したのはウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハザウェイによる商社株をはじめとした日本株の買い増し姿勢だ。
日本株を煽りたい人たちはこのニュースに狂喜乱舞し、今でも日本株セールスのキャッチコピーとして使っている。
日本買いが進むとの主張がなされているが、そうとも言えないことは以前の記事で示したとおりだ。
バークシャーは、円債で資金を調達し円資産の日本株を買っているからだ。
もちろん、円金利が低いことも円債による調達の主因だ。
しかし、それならドル建て投資の分も円建てで調達すればよいが、そこはALMの基本通り、資産と負債をマリーしている。
金利と為替は表裏一体のもの。
バークシャーのやり方は、円相場の変動をヘッジする効果がある。
もう少しいえば、日本の商社等は有望かもしれないが、通貨は危ういかもしれないと考えているのではないか。
そう理解すると、これはもはや日本買いではない。
リスクプレミアムの話題で、なぜこのニュースを思い出したのか。
それは《円債で資金を調達し円資産の日本株を買っている》というバークシャーのポジションだ。
信用度が極めて高いバークシャーが円債で資金調達するとは、リスクフリー金利程度の資金調達をするということ。
一方、日本株を買うとは
リスクフリー金利 + リスクプレミアム×βリスク
の期待リターンを見込むということ。
(バークシャーだから、いくらか+αも見込んでいるだろう。)
つまり、バークシャーのポジションは投資先のリスクプレミアム(+α?)を取りにいくポジションと解せるのだ。
では、このリスクプレミアムはどこの事業のリスクに対するプレミアムだろう。
(6月の報道では、例えば伊藤忠への持分は7.47%、三菱商事は8.31%だという。)
大手商社を見た時に、これら企業の収益源となっている地域はどこだろうか。
これら企業は、地域セグメント情報を出さないほど国際化した事業を有しているので、定かにはわからない。
しかし、直観として、ゆうに過半の収益は海外によるものではないか。
もちろん海外比率の高い事業構造は商社に限ったものではなく、メーカーでも広く見られる状況だ。
最近、誰かが《日本株は米国と中国に対して同じくらいのエクスポージャーを持っている》と言っていた。
バークシャーが円債で借りて日本株に投資するというのは、リスクプレミアムに着目する時、日本リスク(日本経済のリスク)を取るというよりも日本以外のリスクを取る面が大きいのかもしれない。
(消費者としての日本人は日本株リスクでなく日本リスクの脅威にさらされている。
それが投資する重要な理由だ。)
日本株を買うこと自体が、ある意味でキャリー・トレードのような構図になっており、そのリスクは日本リスクというより、海外リスクの性格が強い。
日本株が世界経済に対して極めて敏感なゆえんだろう。
《リスク・オンの円売り》という言葉が定着して久しい。
これは、円の低金利を生かしてリスク資産を買う動きから説明されてきたが、それだけでは舌足らずだ。
なぜなら、リスク・オンの米ドル売りもまた真だからだ。
日米金利差が小さい時から、リスク・オンでは円売りドル買いが見られてきた。
やはり、日本はリスクテイクの場としての魅力で負けていたのだろう。
(それはまた伝統的な金利差の推移にも表れている。)
バークシャーが商社株を買ったからといって、それは日本買いとは言い難い。
それでも、日本株を買ってくれたことは素直に喜べばいい。
しかし、本格的に喜ぶのは、バークシャーが内需株をたくさん買ってくれた時だろう。