やなことを思い出した。ETFってどうなったんだっけ?
ある記事を読んでいて、久しぶりに日本株特有の弱気材料を強く感じ取り、暗い気持ちになった。
その材料とは、日銀による日本株ETFの買い入れだ。
方針見直しもあり、今ではほとんど行われなくなっている。
しかし、フローは細ってもストックは厚い。
日銀が株式ETFを買い入れることには最初から心配の声が大きかった。
株高の演出とまではいわないが、意図が少し弱い。
国債の代わりに買うものが必要だったのか、リスクプレミアムを圧縮するのか。
問題は、副作用まで考えた時に割に合うものだったのか、であろう。
2017年のコラムを見直してみたら、ETFに組み込まれていない銘柄、つまり指数に組み込まれていない銘柄を買うよう奨めていた。
日銀が抱える莫大なETFが将来、長期投資家にとっての「見えない天井」になるとの趣旨だった。
では、この見えない天井、今はどうなっているのか。
トウシルで元日銀理事 早川英男氏のインタビューを載せていた。
以前FPでも同氏の有名な著書『金融政策の「誤解」-“壮大な実験”の成果と限界』を紹介したが、日銀や金融政策の表裏を語らせたら当世随一の語り部だ。
そのインタビューも、実に玄人らしい分析・予想に溢れ、素人が加減できるところはない。
その中に日銀のテーパリングについて語った部分があった。
国債については期限償還に任せばよいとのことだが、問題はETFだ。
ETFは打つ手はないと思っています。
・・・
ETFをあれだけ買い入れたことが間違いで、いい案はありません。
少し買うぐらいなら問題なくて、僕は最初のころはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)に移管すればいいと思っていました。
GPIFがもう引き取れる規模の額ではありません。
国が民間企業の株式、特に上場株式を多く抱えた例としては預金保険機構が公的管理下の銀行から買い取った株式などがある。
当面は信託に入れられるなどし、徐々に処分されていった。
それでも該当銘柄の需給にはマイナス要因で、程度の差こそあれ「見えない天井」になっていたのだと思われる。
(少なくとも私はそういう銘柄を敬遠していた。)
日銀の9月30日付財務諸表によれば、資産の部に計上された「信託財産指数連動型上場投資信託」の簿価は37.1兆円。
時価は60.6兆円。
日銀の含み損益を考えるとウハウハのようにも感じるが、この莫大なブロックが市場に放出されるとなれば話は変わってくる。
同月の東証株式時価総額は854.4兆円。
日銀保有分は約7%となる。
指数に算入されている銘柄全体に効果を及ぼすという意味で、この7%はかなり気になる数字なのではないか。
また、日銀が主要株主になっている発行体も少々心配しているだろう。
日銀がETFを買い始めた時、最終的には信託などSPCに切り分け、誰かにはめ込むか、ゆっくりと消化するのだろうと考えられてきた。
早川氏が言及したGPIFもその候補ではあろう。
9月末のGPIFの運用資産額は223.8兆円、うち国内株式が54.9兆円。
早川氏の指摘どおり、いくら植田総裁の古巣でも、60.6兆円を引き受ける懐はない。
(このためにGPIFが運用方針を変更しようとすれば、すぐさま政治問題化するだろう。)
ならば確定拠出年金は? NISAは? と夢(悪夢)は広がるが、投資家の意思により運用される口座にはめ込むわけにもいくまい。
あるとすれば、暴論の類ではあるが、ヘリコプターマネーの中身としてETFをばら撒くといったところだろうか。
(1人50万円弱になる。)
マイナンバーカードに自動的に付与し、傾斜をつけたロックアップ期間を設ける。
国民は、ETFを現金化したければMNカードを提示し自身の証券口座に引出し、ロックアップ解除後に売却すればよい。
ただし、こうしたアイデアは本来の問題点を解決するものではない。
自社株買いを含め、どんな形であれ、誰が抱えるのであれ、割り当てられた分だけその人が市場から買おうとする需要が減ってしまうからだ。
外国人が日本株を買ってくれる、というのはセルサイドが用いる釣り餌の典型的一例だ。
しかし、外国人は総じて賢い。
こういう事情を抱えた市場に長期的にコミットするだろうか。
日本株専門の運用者としては、つらい現実を認めざるをえないのである。
でも唯一、日本株を買える王道がある。
それは、超過利潤を生みだすと期待できるバリュー株に集中投資することだ。
企業が儲けたお金は必ずいつか投資家の目に見えるようになる。
それは配当・自社株買いかもしれないし、あまりにも非効率な資本政策かもしれない。
あまりにも不合理な現金保有等を行えば、長期投資のホライズンの中で、いつか発行体に冷水が浴びせられ、本来の価値が表出するものだと思う。