今はどこ? – 市場サイクルを極めることはできる??

ここまで考えてきたのは、約7-10年周期の景気・市場サイクルだ。
もう1つ考えたいのが、レイ・ダリオ氏が予想してきた超長期サイクル(数十年のサイクル)の終わりだ。
(弊社著『超長期サイクルが終わる時』を参照。)

超長期サイクルはまだ続きそう

かなり以前からダリオ氏は、これが近いと言っていたが、最近は《あと1回短いサイクルがありそう》と話している。
私もその意見に賛成だ。
理由は、FRBが予想以上に大幅な利上げをし、大きな利下げ余地を得たためだ。
ダリオ氏が想定する超長期サイクルの終わりには、景気刺激のために財政・金融政策ともにフル・スロットルとなり、そして力尽きる、といったイメージがある。
今回、米財政はかなり厳しそうだが、金融政策には余力がある。
超長期サイクルの終わりとはならないのではないか。

日本ではこれまで停滞が逆にディスインフレを生み、それが悲惨な財政状況を助けてきた。
超長期サイクルの終盤は意外としぶといかもしれない。

ただし、過去20年と比べれば、米経済はインフレ的に変化している可能性がある。
こうした状況での弱気相場では注意すべき点がある。
実質株価が大きく下げる場合でも、名目株価があまり下げないことがある点だ。

今は実質金利がプラスだから、米国債を保有することには合理性がある。
しかし、インフレのまま実質的な弱気相場になる場合、名目株価の下げが大きくないなら、債券よりましとなる場合もありうる。

サイクルが終わるなら日本は苦境に

今回のサイクル終期のもう1つの特徴は日本だ。
通常、金融引き締めサイクルではまず米国が利上げし、次に欧州が利上げし、そして日本が利上げする。
米国の利上げから日本の利上げまで円安ドル高となりやすく、これが日本企業の見かけの利益・日本株の見かけのリターンを押し上げる。
日銀は本格的な利上げまで至っていないから、経験則上、現在は日本株がよい時期なのだ。

今回の特徴は、米国が利上げ終了となりそうなのに、まだ日銀が本格的な引き締めに着手していない点だ。
仮に米国で景気後退となるなら、日本に波及しないとは考えにくい。
日本は引き締め余地をほとんど持たずに迎えることになる。

弱気相場で日本株のPERは役に立たない

なお、何度も書いてきたことだが、こうした局面で日本株のPERは全く役に立たない。

ジェレミー・シーゲル教授は、米中小型株のPER 11-13倍について「景気後退を織り込んだ水準」と話している。
これはどういう意味だろう。
たとえば、現状12倍のPERについて静的に20倍ぐらいが適正と考えていたとしよう。
今後、景気後退でEPSが現在の60%ぐらいまで落ちると想定するなら、20 x 60% = 12倍も妥当という計算になる。

問題は、日本株の場合はこうした計算ができないことだ。
大きな弱気相場において、日本株のEPSはゼロないしマイナスにまで低下することが多かった。
そういう可能性を考える時に《足元のPERが十分に低い》と主張してもしかたない。

私は決して、日米市場が弱気相場入りすると予想しているわけではない。
むしろ、名目株価についてはたいして下がらない可能性もいつになく高いと感じている。
大切なのは、思い込まないことだ。
上がる可能性もあり、下がる可能性もある。
だから、フルインベストは危険だし、すべて売るのはもっとよろしくないのだと思う。


山田泰史山田 泰史
横浜銀行、クレディスイスファーストボストン、みずほ証券、投資ファンド、電機メーカーを経て浜町SCI調査部所属。東京大学理学部化学科卒、同大学院理学系研究科修了 理学修士、ミシガン大学修士課程修了 MBA、公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

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