デフレという怪物

10年ほど前、日本売りで有名になったのがヘイマン・キャピタルのカイル・バス氏。
日本国債をショートし、自身の考えを盛んに宣伝、バンドワゴン効果を得ようとした。

日銀のイールドカーブ・コントロールもあって、国債は下落しなかった。
バス氏をよく思わない人たちの中には嘲る向きもあったが、それは無知な反応だ。
為替ヘッジなしでショートしたバス氏は、異次元緩和による急激な円安によって巨額のリターンを得ている。
日本人が気づかないうちに日本国債は《暴落》していたのだ。

外国人の日本株買いは本物か

最近の日本株の上昇では、外国人の買いが宣伝され、日本人を煽るような向きもあるようだ。
その旗印に利用されたのが、ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハザウェイによる5大商社買いだ。
これを日本買いと表現するのには無理がある。
バフェット氏の商社株投資は何リスクへの投資か?」で書いたとおり、これは海外事業・資産に重点のある投資だろう。
円債で借りて多国籍企業に投資するのは、日本経済への買いとは言いにくい。

現在、外国人が日本株を買っているという話もどこまで真に受けていいものか。
彼らのうち、為替ヘッジをせずにアウトライトで買っている人はどれだけいるか。
買いが大企業に集中しているというが、それら企業の事業のどれだけが国内経済によるものか。
もちろん日本株が買われることは悪いことではない。
しかし、アベノミクス初期に日本株を買った外国人がたんまり利益をとった後すぐに日本市場を去っていったことも忘れてはいけない。

逆に日本人の方は、いっそう外国への投資を積極化しているようだ。
もう少し正確に《日本のスマートマネー》というべきかもしれない。
政府やセルサイドが、日本は変わったと喧伝する中、国民は違うことを考えているようだ。
これが上記の「資金逃避と通貨防衛」で描かれたシーンと少しダブって見えている。

デフレはラスボスではないのでは

報道によれば、政府がデフレ脱却の宣言を検討し、日銀は近く金融政策正常化に動くのだという。
いずれも誤った方向ではないが、何をいまさらの感がぬぐえない。

日本のCPI
日本のCPI

政府はデフレを「継続的な物価下落」と定義してきたが、とっくの昔に「下落」は「継続」していなかった。

バブル崩壊後の失われた10年、日本は過酷な資産デフレに苦しんだ。
これは明らかに有害だった。
(それでも、例えばそれによって庶民が再び家を買えるようになるというようなプラス面もあった。)
一方、CPIにおけるデフレはさほど深くなく、期間も限定的だ。
いずれも金融危機、バブル崩壊、天災などと紐ついている。
デフレが経済を悪くしたのか、経済悪化がデフレを生んだのか、今後検証されるのだろう。

言い換えれば、政策、とりわけ金融政策によってデフレをインフレにすれば問題は解決するのか。
あるいは、金融政策にその力があるのか、が議論されなければいけない。
(近年の日米欧のインフレは、金融政策でなく財政政策と供給制約によってもたらされている。)

(次ページ: 植田日銀総裁は何を考えるのか)

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