【輪郭】ちょっとバブルを心配した方がいいかも
市場心理
もう1つ気がかりなのが市場心理だ。
ここでも2つの要因がある。
今年の市場は2つ大きく変わってきたように感じている。
1. 初心者の大量参入
言うまでもなく、新型NISAの影響だ。
これまでリスク資産への投資に消極的だった人も含め、国家がリスク投資を奨励しインセンティブをつけている。
しかも、史上最高値圏を回復するタイミングでこれが始まった。
長期投資のための制度だからといって、問題ないのだろうかと心配になる。
8月上旬のタントラムでは、やはり売りが膨らんだ。
買いはもっと多く、ネットで買いだったから問題ないという論調もあったが、そうではあるまい。
買ったのはタイミングを待っていた老獪な投資家が多かったろう。
やはり初心者の中に多く、ろうばい売りを入れた人がいたのではないか。
長期投資なら下げでむしろ買わなければいけないのに、逆の行動も確かに多かったのだ。
業界も含め、誰もが投資教育の不足を感じており、声を大きくしている。
しかし、実行となると、言い訳程度にとどまっている。
母数の大きさからいってそうならざるをえない面はあるが、そう言えるのはうまく行っているうちだけだ。
現状は、全体で見てほとんど何もなされないまま大量参入が続いている状態だろう。
そして、これこそが大きな下げの直前にしばしば見受けられる現象でもある。
プロが少し心配を募らせる一方で、新規参入組の危機感は薄い。
その層が市場の熱狂を生み出し、何らか臨界点が訪れるまで相場を押し上げる。
その後、市場は急転し、ほとんどの市場参加者が被弾するが、もっとも大きく被害を被るのは最後に入ってきた人たちだ。
この人たちは、身銭を切って老獪な投資家の出口を提供してしまうのだ。
2. 投資家の思い上がり
もう1つの心配は、刺激策の副作用としてもたらされる勘違いだ。
多くのバブルの前段には拡張的な金融・財政政策がある。
これはマネーを通してリスク資産を押し上げるだけでなく、投資家に陶酔感を与えてしまう。
バブルの拡大が目覚ましい時、投資家の多くが、あたかも自身が天才になったかのような感覚にとらわれる。
比較的若い世代が多かった金融の世界で、キャリア十数年と言えば、もうベテランの域に入る。
ところが、その世代は金利上昇も大きな弱気相場も経験していない。
(パンデミックでの下げなど、長い人生で振り返れば、たいした弱気相場ではない。
見え見えの買い場だった。)
少なからぬベテランのキャリアは基本的に金融・財政刺激策に持ち上げられてきた。
そしてまた世界では金融緩和が始まり、日銀は利上げの手綱を弱めつつある。
政治家は選挙を控え、ばらまきたくてうずうずしている。
比較的若いベテランに弱気相場の記憶はなく、20年以上のベテランになると物忘れがひどくなりつつある。
焼かれたことのない投資家や忘れっぽい識者が自信過剰になっていないか心配だ。
なんとなく1980年代後半に似てきたような気がする。
筆者は学生時代に1980年代終わりのバブルを眺めていた。
まだ金融の知識はなかったが、自然科学者の目から見ても、異常な行動をとる人が増えていた。
恐ろしいのは、バブルが伝染することだ。
ビギナーズ・ラックで儲けた人は、喜びのあまり大声で吹聴する。
無理もない。
人間のサガだ。
たいした投資家でもない者が儲けるなら自分も行ける、と思う人が現れる。
儲けた人は「善意」にもとづき、他の人に奨励までするのである。
こういう構図を学生でも目にする時代だった。
こうした伝染・連鎖の後に逆回転が訪れる。
筆者は銀行員としてこれに直面し、社会人のスタート時、実に非生産的な仕事と格闘することになった。
いろいろな意味でとてもいやなことがあった時代だ。
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