【Wonkish】「分散」という欺瞞。巧妙なレトリックにだまされてはいけない

シグマ・リスクとベータ・リスク

ファイナンス理論では様々なリスクの概念があり、間違えないように厳格に定義されている。
中でも一般的なのがシグマ(σ)リスクとベータ(β)リスクであり、ざっくり説明しよう。
σリスクとはボラティリティ、上記で話した狭義のリスクの1つだと考えればよい。
σリスクの一部は、分散投資をすることによって中和することができる。

リスクには分散しても中和できない部分がある。
それがβリスクである。
この定義から、
・σリスク: 投資対象の固有のリスク
・βリスク: 分散不可能なリスク
と区別される。

ファイナンス理論でハイリスク/ハイリターンと言った場合、主にβリスクを想定している。
σリスクにはまだ分散によって減らせる部分も多いから、リターンとの間の相関がさほど高くならないのだ。
一方、βリスクは分散の努力の後にも残るリスクであり、これがCapM式によって期待リターンと線形の関係にあるとされている。
分散投資が広くいきわたったこの世界では、ほとんどのファンダメンタリストはβリスクを最重要視しているのだろうと思われる。

さらに、最もよく分散されたポートフォリオとは、すべての資産を含んだポートフォリオ(マーケット・ポートフォリオ)である。
これは数学的に正しい事実だ。
マーケット・ポートフォリオの近似・代用として用いられるのが、各国市場またはオルカンの時価総額平均指数である。
このことこそが株価指数に連動するインデックス投資が現在のように繫栄した最大の理由だ。

重要な2点は:
分散投資が減じることのできるリスクはσリスクであり、リターンとは直接には無関係ということ。
期待リターンと密接に関係しているのは分散できないβリスクだということ。

分散とはσリスクを低減する概念

もう1つファイナンス理論で厳密に意識してほしいのは、リスク分散という場合、それはリスクを低減しようとすることであり、リターンに注目したものではないということ。
分散が結果的にリターンに影響を与えうるのは間違いないが、分散という行動自体は本来リターンに対して中立な行動と考えるべきだ。
言い換えれば、投資分散はリターンを高めるものではなく、σリスクを低減するものということ。

そんなことは当たり前と思うかもしれないが、日常用語におけるリスクをリスクと考えている人にとっては大ごとだ。
そういう人たちはリスクのことを下方リスクと捉えていることが多い。
結果、分散によってリスクが低減されることは、下方リスクが低減すること、つまりリターンが上昇することであるとの印象が与えられてしまう。

この点に無知または巧妙な確信犯がつけこむのである。

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