【Wonkish】「分散」という欺瞞。巧妙なレトリックにだまされてはいけない
なぜ「分散」が好まれるのか?
不運にもここまで読んでしまった読者はさぞかし《細かなつまらないことを長々と》と思われただろう。
一部メディア・識者の「分散」という言葉の使い方について筆者がいら立っているのには理由がある。
そこに目くらましの要素が入っているように思われるからだ。
先述した3例ではいずれもリスク分散とリターンの話が混同されている部分があった。
期待リターンに対する話者の私見が前提となっており、リターンを悪化させない策として「分散」が有効と主張されていた。
これは明らかに悪いといえるアプローチだと思う。
「分散」という言葉を用いたレトリックが好まれる理由は明らかだ。
それが理論的、あるいはかぐわしく聞こえるためだ。
仮に正直に《この資産クラスは見通しがよくないので他の資産も入れなさい》と言えば、それが1つの私見を前提としたアクティブ投資的判断、あるいはマーケット・タイミング的なものと明示することになる。
そうなれば、聴衆のかなりの部分は一瞬で興味を失うだろう。
だから、「分散」という賢く聞こえるレトリックが好まれているのだ。
昨今の投資環境の変化を考えれば、ポートフォリオの配分・中身を見直すことはむしろよいことだろう。
でも、何か投資について判断をする時には、自分が何をしているのかを正しく認識することがとても重要だ。
自分はリスク分散のためにこれをするのか、リターン向上のためなのか。
リターン向上だとすれば、効率的期待仮説をそこそこ尊重した上で、自分の前提は正しいのか、十分考える必要がある。

横浜銀行、クレディスイスファーストボストン、みずほ証券、投資ファンド、電機メーカーを経て浜町SCI調査部所属。東京大学理学部化学科卒、同大学院理学系研究科修了 理学修士、ミシガン大学修士課程修了 MBA、公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。
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