【書評】なぜグローバリゼーションで豊かになれないのか

JP Morganチーフストラテジスト北野一氏によるファクト・ベースの経済書。
自由貿易主義の主張が正しいとすれば、これまでグローバル化を進めて来た日本経済にはなぜ「豊か」な感覚を持てないのか。
誰しも感じているであろうこんな疑問に答えてくれるタイトルと思い読んでみた。
ファクト・ベースで進む、しっかりした分析が印象だが、それでいて読みやすい。

北野氏の主張は
 グローバル化で企業に要求される資本コストも収斂してきた。
 潜在成長率の低い日本も世界均一の資本コストを要求されている。
 結果、日本企業の国内活動は縮小せざるを得なかった。
というものだ。

北野氏の主張はその通りだと思う。
一方で、ある意味で目新しさはないとも言える。

日本の経営者から言えば、
 ステークホルダーにまんべんなく気を配ってきたのが日本流のガバナンスだった。
 そこに株主偏重の米国流ガバナンスが押し付けられてきた。
 結果、「株主にとって無駄と見える」企業活動を削がざるを得なくなっている。
という印象は常に頭の中にあるだろうから。

注目すべきは、では日本企業が何をすべきか、であろう。
北野氏は、
 潜在成長率が上がるなら理想だが、無理ならば資本コストを下げる。
 配当等により株主還元を行い、レバレッジを上げてWACCを下げる。
 結果、PERが上がり、日本株の日本人保有比率は上昇する。
と言う。

これもその通りだ。
この本は2008年に書かれた本だが、その主張はいまだ生き続けている。

少々物足りなさを覚えた点を2点挙げておく。
まず、経済分析において、日米比較が多い点。
すでに日米は世界の両極とは言い難いほど世界の各経済は拮抗しつつある。
日本と米国以外の世界も含めたバランス論を見てみたかった。
次に、どうすれば日本が豊かになれるのか、産業面からの見解を読みたかった。
現状、営業損益でさえ黒字にするのが難しい事業会社が多い中、WACCを下げることだけでは解決になりえないのは明らかだ。

2008年にリーマンショックが起こり、2011年に大地震があった。
日本を豊かにしてくれる策は誰が与えてくれるのだろう。

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