【書評】弱い日本の強い円
JP Morganの為替ストラテジスト佐々木融氏による外国為替市場についての本。
当たり前のことが書かれているようで、実は陥りがちな誤解を鋭く突いてくる。
私たちが為替相場についてなんとなく感覚的に語られること、報道で枕詞のように語られること、そんな中に誤りが少なからず潜んでいることを指摘してくれる本だ。 為替の初心者も中級者も、この本から得るものは大きいはずだ。 PCが得意なら、 |
やはり為替は難しい
読み終えて筆者が感じたのは、
やはり為替は難しい
ということだった。
為替の動きを決めるのは短期・長期のマネー・フローだ。
それに影響を与える代表的なものはなんと言っても経常収支や金利差だろうが、それだけではない。
今の市場を動かしている大きなドライビング・フォースが何か、これを正しく知るのは至難の業だ。
安易な市場動向の解説記事
佐々木氏の報道に対する批判には全く賛成だ。
筆者が最近辟易しているのは、
・円高になれば「○○のためにリスク・オフが進んだ」
・円安になれば「○○のためにリスク・オンに向かった」
というような記事。
こういう記事がどうやって書かれているかと言えば、
・昼や夕にその時点で円高か円安かが分かる
・1・2年生の銀行員が公式に合わせて理由を選択
・記者がその銀行員に取材して記事を書く
と言った程度の話なのだ。
結果に合わせて理由を選んでいるだけであって、それが正しい保証はどこにもない。
長期的には購買力平価で為替が決まる
難しい為替について、為替のプロでない投資家が生かせる教訓は何だろう。
本書では、為替が長期的には購買力平価で決まると書いている。
これは当たり前である一方、忘れがちな大原則である。
「当たり前」である理由
当たり前なのは、為替とはそういうものだからだ。
自由化がなされ、ある程度市場の厚みのある通貨ペアであれば、為替レートは需給を相当に忠実に反映していると考えてよいだろう。
一方のモノの価格はどうか。
モノは為替の市場ほど効率的に行き来できるわけではない。
だから、短期的には内外価格差はあって不思議ではない。
しかし、長期で見れば、輸出入のコストを低減したり、モノの行き来がない形で同等の価値を移転する方法を見出したりすることも可能かも知れない。
そうなれば内外価格差は縮まっていく。
結果、長期でみれば為替相場を購買力平価で説明することは「当たり前」という話になる。
経済成長も為替を直接決めるわけではない
一方で「忘れがち」なのは、経済成長との関係だ。
日本はかつて高い高度成長を果たした。
それとともに円高が進んだ。
だから、ついつい経済成長する国の通貨は強くなると考えてしまう。
しかし、バブル崩壊後も円高が進んでいることを考えると、それは正しくないのだろう。
日本の円高の理由は、やはり経常黒字によって牽引されてきたというべきだろう。
その経常黒字は輸出によって支えられていたから、高度成長期も、低成長期も円高傾向が続いたのだろう。
人口動態や経済成長が直接的に為替相場を決めるのではないという本書の指摘は、ありがちな勘違いを正してくれる。
さて、ここで興味深いテーマが浮かぶ。
為替、金利、経済成長、インフレの関係はどう整理すればいいか。
少し長くなったので、これは次の機会に扱おう。