【書評】日本経済「円」の真実

ミスター円こと、榊原英資青山学院大学教授による経済についての書。
いわば、榊原イズムの箴言集とでも言ったところか。

榊原ファンにはさしてサプライズを感じない内容だ。
2012年10月の出版ということもあり、その後の変化を織り込んでいないというところもある。
それでも、軸のぶれない氏の意見は傾聴に値する。
一つ面白いのは、資産運用、マスメディアについての章があることだ。

マスメディアについては、
 ・日本のマスメディアは大きすぎて、報道の多様性が乏しい
 ・世論を一方向に増幅する傾向がある
 ・記者クラブには弊害がある
と指摘している。

 
資産運用については、
 ・円で使うなら円で保有すればいい
 ・自分の金融資産のほとんどは日本国債
 ・中長期なら新興国通貨
 ・金も不況になれば下がる

榊原氏は現在を「数百年に一度の大きな転換期」という。
世界的な低金利という変化、リオリエントの流れを指摘する。
そのような背景があって、上記のような資産運用の奨めとなるのだろう。
この奨めを正しく読み解くことが重要だ。
特に通貨について、短期と長期を分けていること。
そして、氏が1941年生まれであること。

そもそも年金世代にはリスク資産の投資は向かない。
株や外貨への大きなエクスポージャーは生活資金を不安定にする。
年金世代が預金・債券で大半の資産を運用することは、仮にインフレに勝てない場合でも正しい。
いわば、流動性・安全性のために利回りを犠牲にするに過ぎないからだ。

一方、現役世代、特にアラフォー世代はどうだろうか。
生活にようやく余裕が出始め、引退後への備えを始める時期だ。
そのような世代には、足音が聞こえるインフレや低金利に対して相応の備えをすべきだ。
その一例が新興国通貨ということだろう。

なお、榊原氏は為替を見る上では実質実効為替レートが重要と述べている。
物価や交易の内容等の要因を勘案した上での円相場を見るべきとの示唆だろう。